米パワーフリートやエレメント・フリート・マネジメント(カナダ)など企業向けの車両管理システム大手は、電気自動車の充電スケジュールやバッテリーの状態など管理を最適化できる新機能を追加している=エレメント・フリート・マネジメントのサイトより
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米アマゾン・ドット・コムや米小売り最大手ウォルマートなど社用車を大量に持つ企業が電気自動車(EV)や自動運転車の導入に数十億ドルを投じるなか、企業向けの車両管理システム大手はこうした様々な種類の車両を対象にしたサービスを向上するため、戦略的買収を進めている。実際、車両管理システムと、車両に通信機能を搭載して位置情報を取得し、走行データを取得するテレマティクス分野のスタートアップのM&A(合併・買収)によるエグジット(投資回収)の件数は、2020年以降2倍以上に増えている。

米パワーフリートやエレメント・フリート・マネジメント(カナダ)など企業向けの車両管理システム大手はM&Aにより、顧客企業の管理責任者が充電スケジュールやバッテリーの状態、効率的な走行ルートの選択、点検サイクルなど管理を最適化できるよう支援する新たな機能を追加している。

車両管理・テレマティクス大手が買収で機能拡充目指す。M&Aによるエグジットの件数、年別(24年は12月3日時点)。出所:CBインサイツ

このリポートではCBインサイツのデータを活用し、車両管理システム企業が他社よりも優位に立つために活用できる市場の変化を明らかにする。

ポイント

車両管理システム企業は成長の機会をつかむため、テレマティクス企業の買収に目を向けている。24年に特に買収に積極的なのはパワーフリートとエレメント・フリート・マネジメントの大手2社だ。ユーザー基盤を拡大し、自社ソフトに新たな機能を追加するため、計3社を戦略的に買収した。

買収の次の波の目玉は、ハード機器不要のテレマティクスシステムになりそうだ。この技術はハード機器を使うシステムに比べ、EVや自動運転車を含む車両の管理を迅速かつ低コストで展開できる。戦略的ビジネス関係や事業展開地域から、米モトーク(Motorq)とVolteum(ハンガリー)が潜在的な買収対象として突出している。

車両管理システム企業、成長の機会をつかむためテレマティクス企業に注目

24年の車両管理・テレマティクス分野のスタートアップのM&Aによるエグジットは53件で、20年の水準から112%増えた。既存のテレマティクス企業が新興勢を戦略的に買収し、サービス拡大と新規顧客の獲得を進めている。

例えば、パワーフリートは車載機器を使わずに車両をモニタリングでき、既存の基盤にEVや自動運転車を簡単に加えられるミックス・テレマティクス(MiX Telematics、南アフリカ)を買収した。これにより事業展開地域の拡大によるユーザーの増加や、関連商品の販売や上位製品に乗り換える機会の提供が見込めるとしている。

パワーフリートが最近の決算説明会でミックス・テレマティクスの買収効果に言及。出所:CBインサイツ

パワーフリートが24年に買収したミックス・テレマティクスとフリート・コンプリート(Fleet Complete、カナダ)は、ともに様々な種類の車両を保有する企業向けの総合車両管理システムを通じ、EVモニタリングシステムを提供している。パワーフリートはフリート・コンプリートの買収により、ハード機器不要のクラウドベースのコネクテッドカー(つながるクルマ)を軸にした大手自動車メーカー(米フォード・モーター、米ゼネラル・モーターズ=GE、欧州ステランティス)との提携関係を手に入れた。

エレメント・フリート・マネジメントも24年、オートフリート(Autofleet、イスラエル)を1億1000万ドルで買収した。この分野では最も高額の買収の一つだ。オートフリートはEV、自動運転車、マイクロモビリティなど様々な種類からなる車両の需要予測、走行ルート決め、料金設定などの機能により、運行の最適化を支援する車両計画シミュレーターなどを手掛ける。

こうした活動は続いており、既存大手は企業の車両管理責任者を対象にした包括的なシステムの構築に向け、今後も買収や提携を進めるだろう。足元の活動はEVに集中しているが、自動運転車が普及すれば車両管理の活動の新たな波が起きるだろう。

ハードウエア不要のテレマティクス、車両管理システム各社の主な買収対象に

機器の設置が必要な従来のテレマティクスツールとは違い、コネクテッドカーのテレマティクスは既存のモバイル端末か車載システムを活用する機器不要のシステムだ。柔軟性や費用対効果、様々な種類の車への導入しやすさから、EVや自動運転車なども管理する場合に特に適している。

この方法により、様々な種類の車に速やかに展開し、設置費やメンテナンス費を削減し、EVや自動運転車の技術の迅速な進化に対応した遠隔アップデートが可能になる。

機器不要のテレマティクス企業のうち、買収対象になる可能性が高い企業を特定するため、700以上のEVや自動運転車向けテレマティクスシステムの買収対象になる可能性を分析した(このスコアは企業の財務指標や投資家の実績など約70のデータポイントに基づき、2年以内にM&Aによるエグジットに至る可能性を測定している)。

上位に入ったスタートアップのうち、買収対象となる可能性が飛び抜けて高かったのはモトークとVolteumの2社だった。モトークはコネクテッドカーの管理で確立した提携を持つ成熟した企業で、Volteumは欧州での事業拡大を目指す既存企業を支援できるEVに力を入れているアーリーステージ(初期)企業だ。

モトーク:調達総額4900万ドル

・独BMWやGEなど世界的な自動車メーカーと提携

・既存のコネクテッドカーシステムを使い、機器なしで車両管理機能を搭載できる

・車両管理にとどまらず、レンタルやディーラーサービスなども手掛ける

モトークの展望;。出所:CBインサイツ

Volteum:調達総額140万ドル

・ライドシェアやラストワンマイルなどのEVの最適化に注力

・最近は様々な種類からなる車両の管理も手掛ける

・欧州でのスリムな経営(社員15人)により、この地域で事業を効率的に拡大できる可能性を提供する

今後の見通し

現在のテレマティクスのM&A活動は、広く商用化されているEVが主な対象だ。

一方、24年には自動運転車の開発が再び活発化した。テック企業、自動車メーカー、サプライチェーン(供給網)企業は米ウェイモ、米ガティック(Gatik)、英ウェイブ・テクノロジーズ(Wayve Technologies)など自動運転技術開発企業に出資し、この分野に参入している。自動運転分野の24年の資金調達額は前年比3倍に増え、米ウーバーテクノロジーズなど主な利害関係者はロボタクシー(自動タクシー)車両の拡大に取り組んでいる。

自動運転車を導入すれば自動運転システムのモニタリング、膨大なセンサーデータの処理、ソフトウエア更新の管理が必要になり、車両管理はさらに複雑になる。管理責任者は管轄地域によって異なる自動運転車の規制順守(例えば、どの道路を走行できるかを理解するなど)も求められる。

こうした新たな利害や注目度の高さを考えると、車両管理・テレマティクス企業は既存車両に自動運転車を加えようとしている顧客企業のために、自動運転システム開発企業と提携するだろう。

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