飲食施設を運営する浜倉的商店製作所(東京・中央)がJR新橋駅前に大型レジャー「グランハマー」を開業した。これまでシャッター街を小さな居酒屋が軒を連ねる「恵比寿横丁」(同・渋谷)などに再生してきた。新施設は初めてビル1棟を丸ごと使う。各階に芸者の踊りやクレーンゲームを楽しむ酒場、サウナなどをそろえて都心に新たな体験価値をつくる。
「横丁」づくりの浜倉的商店製作所が開発
浜倉的商店製作所は、2008年に飲食業で働いていた浜倉好宣社長が独立して立ち上げた。同年に開いた「恵比寿横丁」(東京・渋谷)はシャッター街だった公設市場に個性派の飲食店を集め、若年層らに人気の「恵比寿のたまり場」に転換して話題になった。
20年には全長約100メートルに北海道から九州・沖縄までのソウルフード、喫茶スナックを集めた「渋谷横丁」(東京・渋谷)を開いた。「毎日がフェス」をテーマにする。東京・新宿には23年、商業施設の東急歌舞伎町タワー内に「新宿カブキhall〜歌舞伎横丁」を開業して、事業を拡大している。
グランハマーはビル1棟(地下1階から8階)の全9フロアに多様なエンターテインメントを詰め込み、1つのビルで縦に回遊できる初の商業施設となる。
「ありそうでなかった新しいたまり場にした。新橋は実は商業施設が少ない。東京駅周辺やお台場など、多方面から人が集まる立地で集客を期待できる」。浜倉的商店製作所の浜倉社長はこう説明している。
新橋駅から1分、ヤマダデンキの跡地
ビルはヤマダホールディングスが運営していた「ヤマダデンキ」の跡地を活用した。JR新橋駅から徒歩1分の場所で、敷地面積は約8250平方メートルと広い。各階がエレベーターでつながり、回遊性が高いのが特徴だ。土日や祝日には24時間営業の店が多く、1軒目から3軒目まで同ビル内の利用につなげる。
居酒屋を集めた「横丁」のほか、サウナを用意した「リラクゼーションエリア」、芸者の踊りを鑑賞できる「日本文化エリア」といった5つのエリアで構成している。国内外を問わず、全世代が楽しめる都心のエンタメビルを目指す。
1階は「シンバシyokocho武将」と銘打ち、武将が着る甲冑(かっちゅう)を飾り、視覚で楽しめる空間にした。日本各地のB級グルメを扱う。2階は約800個の光る看板で、韓国やタイなどのアジア料理の飲食店を集めた。客単価は3000〜3500円で、学生や会社員の利用を見込む。
酒場とクレーンゲームの相性
若年層を中心に人気の高い「体験型」の施設も取り込んだ。5階にはDJブースを備え、シティポップから昭和歌謡まで幅広い曲を聞きながら飲食できるようにした。またクレーンゲームを15台設け、景品としてもぐらたたきといったパーティーゲームの商品を用意した。「歌舞伎町タワー内の横丁には上にゲームセンターがあり、人気だった。酒場とクレーンゲームは相性がいいと考えて導入した」(浜倉社長)
訪日客(インバウンド)向けに、日本の文化を間近で鑑賞しながら飲食できるエリアもある。地下1階には約20トンの水量をもつ水槽を中央に設け、海女として働く女性が目の前で漁獲の技術を披露するイベントも実施する店を開いた。文化遺産にも登録されている海女漁が盛んな三重県鳥羽市の鳥羽市観光協会などと連携する。
産地と都市部のつながり、来店者の日本文化への関心を持ってもらうことを狙う。伊勢海老やアワビなどの魚介類、肉を使った鍋料理などを楽しめる。6階には花街文化の体験を目的として、芸者の踊りを鑑賞しながら和食を楽しめる店も出した。
新橋はビジネスパースンが多いエリアでもある。休憩の場としての利用を想定して、「リラクゼーションエリア」を7階に設けた。個室サウナのほか、高濃度酸素注入機を備えたマッサージチェアを18台そろえている。
物価高で節約志向が高まる一方で、「価値のある体験には出費を惜しまない」というメリハリ消費が広がっている。
デロイトトーマツグループが4月に男女5000人を対象に実施した調査によると、ここ数年で変化した価値観として、全体の約3割が「節約とぜいたくのメリハリをつけるようになった」と回答した。グランハマーは体験価値に着目し、多様なエンタメ性にこだわった施設だ。新橋の名物施設として定着するためには、顧客を飽きさせない目新しさを提案し続けることがカギになる。
(稲福祈子)
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