牛肉は近畿エリアで好まれているが……

近畿地方の牛肉消費に異変が生じている。2府4県の政令指定都市と県庁所在地では、2023年の1世帯当たり支出額の合計が5年で1割減り、豚肉と並んだ。割安な豚肉や鶏肉に消費の一部がシフトしたとみられる。高値による消費者離れは、牛肉文化が根づく近畿も例外ではない。

総務省の家計調査によると、政令市の大阪、京都、神戸、堺と県庁所在地の奈良、和歌山、大津の1世帯(2人以上)当たり牛肉支出額の合計は22万6295円。18年に比べ12%減った。一方、豚肉は23年が22万5118円と同じ期間で5%増え、牛肉とほぼ並んだ。

近畿では歴史的に牛肉をよく食べる。諸説あるが、牛はもともと朝鮮半島から山陰地方を通じて、縄文時代後期に中国・近畿地方に広まった。西日本を中心に農耕用として使われ、食用としても定着したとされる。

産地も近畿に集中している。和牛のルーツといわれる但馬牛は兵庫県原産とされる。但馬牛から派生したといわれる神戸牛や飛驒牛、松阪牛といったブランド和牛も近畿やその周辺が産地だ。

日本食肉流通センター(川崎市)が家計調査をもとに、政令市と県庁所在地、東京都区部の計52都市の食肉消費をまとめた「食肉番付表」も、牛肉支出額の上位は近畿勢がほぼ独占する。23年の1位だった和歌山市の広報担当者は「カレーには(豚肉や鶏肉ではなく)牛肉を入れる」と話す。

近畿勢の優位に変わりはないが、内容を詳しく見ると別の姿が浮かんでくる。和歌山市の牛肉支出額は3万5945円と、18年に比べて7%減少、2位の堺市は3万4725円で同13%少ない。10位の奈良市は2万9340円と28%も減った。

背景には節約志向を強める消費者のニーズとのミスマッチがある。和牛は農家が高級とされる「A5」の生産に傾斜。輸入牛肉も米国の干ばつで生産が滞り、同国産バラ肉(冷凍)卸値は1991年の輸入自由化以降で最高となった。

一方、豚肉の消費は好調だ。家計調査によると京都市は23年の豚肉への支出額が3万2983円と18年よりも15%増え、牛肉の3万4604円に迫った。大阪市の豚肉支出額は9%増の3万4007円で、堺市が調査対象に加わった08年以降で初めて牛肉を上回った。

もともと豚肉は東日本の消費が多い。支出金額の首位は東京都区部の3万9150円、購入数量の首位は新潟市の26.9キログラムだ。同市の担当者は「豚肉を使う『タレかつ』は地元の名物。家ではカレーも肉じゃがも豚肉を使う」と説明する。

割安な豚肉の購入は東日本でも増えているが、近畿も例外ではない。大阪市は23年の豚肉への支出額が横浜市や川崎市を上回り、52都市中のランキングは08年以降で最も高い15位まで浮上した。

九州の消費量が多い鶏肉の人気も近畿で高まっている。もともと水炊きの文化があるが、むね肉を中心に高たんぱく質、低脂質の特徴が健康志向で支持されている。近畿の政令市、県庁所在地の合計支出額は14万3028円で、18年に比べて13%多い。(筒井恒)

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