【北京=石井宏樹】中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席は16日、北京を訪問中のロシアのプーチン大統領と会談した。習氏は会談で「両国の安定的な発展は両国と国民の根本利益に合致するだけでなく、地域や世界の平和や安定、繁栄に利益になる」と述べた。ウクライナ侵攻でロシアが米欧から制裁を受ける中、中ロの結束を誇示し、ロシアの国際的な孤立を解消する狙いがある。

◆「覇権主義、強権政治」と批判

 プーチン氏は7日、通算5期目の大統領に就任し、初の訪問先に中国を選んだ。プーチン氏は会談後の記者会見で「両国関係の特殊性と高いレベルを改めて示している」と結び付きの強さを強調した。会談には新たに就任したベロウソフ国防相やショイグ前国防相らが参加。ウクライナ侵攻の現状について説明したほか、ロシアに対する外交面や物資面での支援について議論したとみられる。

中国の習近平国家主席=2019年撮影

 習氏は会見で、ロシアや中国への制裁を強める米国を念頭に「冷戦の精神はいまだ尾を引き、一方的な覇権主義、陣営対立、強権政治が世界平和と各国の安全を脅かしている」と批判。ウクライナ問題について「政治解決することが正しい方向であるとの認識で一致した」と語った。

◆声明に原発処理水放出への懸念も

 両首脳は「新時代の全面戦略協力パートナーシップ関係」の深化に向けた共同声明に署名した。国営タス通信によると、軍事分野での継続的な協力強化を掲げ、北東アジアでの米国の覇権主義的な試みに反対すると主張。2国間の貿易・投資で自国通貨のシェアを拡大するほか、福島第1原発事故の処理水放出への懸念も盛り込まれた。北朝鮮問題では米国と同盟国による「軍事的挑発」に反対する姿勢を示した。  プーチン氏は17日に、東北部・黒竜江省ハルビンを訪れ、中ロ博覧会の開会式に出席するほか、現地で大学生らと交流する予定だ。   ◇   ◇

◆アメリカや台湾の選挙にらみ攻勢

 【北京=石井宏樹】中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席が、20日に控えた台湾新総統の就任や11月の米大統領選をにらみ、外交攻勢をかけている。ウクライナ侵攻を巡って米欧が制裁を続けるロシアのプーチン大統領の訪中を受け入れ、連携を誇示。先立って歴訪した欧州では、米欧の結束にくさびを打ち込むなど米国への対抗姿勢を鮮明にしている。

ロシアのプーチン大統領=2021年撮影

 プーチン氏は訪問前に国営通信新華社の書面取材に応じ、「両国の戦略的パートナーシップ関係は前例のないほど高いレベルにある」と強調した。「米国に依存した西側エリートは他国の利益を損なうことで自国の福祉を守ろうと必死に努めている」と欧米を強く批判した。

◆「強国」化へロシアは欠かせぬ存在

 習氏も16日の会談で「数年来、プーチン氏とは40回以上会談し、密接な対話を維持している」と蜜月ぶりをアピール。ウクライナ侵攻の開始以来、ロシアに融和的な姿勢をとる中国に欧米の批判は強いが、米国に比肩する強国を目指す習氏にとってロシアは欠かせないパートナーだ。

アメリカのブリンケン国務長官=2023年撮影

 習氏は4月以降、外交活動を活発化させている。バイデン米大統領との電話会談を受けて、4月末にブリンケン米国務長官と北京で会談。米国が欧州や日韓と対中政策の連携を進めていることを念頭に「米国は『小グループ』に関与すべきでない」とくぎを刺した。

◆フランスに「自主独立」呼び掛け

 4月にショルツ独首相と北京で会談したほか、5月には5年ぶりに欧州を訪れ、フランス、セルビア、ハンガリーで首脳と会談。各国の対中姿勢の温度差を利用し、経済を武器に個別に切り崩しを図った。

フランスのマクロン大統領=2022年撮影

 伝統的に米国への追従を嫌うフランスでは、マクロン大統領に対し「両国は自主独立を堅持し、ともに『新冷戦』や陣営対立を防がなければならない」と呼び掛け、米国と一定の距離を保つよう求めた。

◆「親中派」集めても効果は限定的?

 台湾問題を巡っては、ハンガリーのオルバン首相が習氏との会談で「ハンガリーは過去、現在、未来において『一つの中国』原則を堅持する」と発言。セルビアのブチッチ大統領にも同様に、中国の立場への支持を明言させ、中国と距離を置く民進党の頼清徳(らいせいとく)新総統をけん制した。  ただ、一連の攻勢の効果を疑問視する声も上がる。習氏はフランス訪問中、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長から、欧州で懸念が高まる中国の過剰生産問題を指摘されると、「中国の過剰生産問題は存在しない」と一蹴。北京の外交筋は「国内で1強体制が長期化する中、外からの批判的な声が届かなくなっている。親中派の国ばかりを固めても、米国へのけん制効果は限定的ではないか」と話した。 

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