岸田文雄首相は先の訪米で、南部ノースカロライナ州立大(NCSU)内にある名古屋大グローバルキャンパスを視察し、国内大学の海外展開や留学生の経済支援を公費で後押しする考えを強調した。首相の「お墨付き」を得た名大は、英語と日本語を共通言語に海外トップ大学との連携を一層強め、名大への留学生増加も図る。(鈴木凜平、同州ローリーで、浅井俊典)

12日、米ノースカロライナ州立大内の名大キャンパスで杉山直学長(右)と懇談する学生たち=浅井俊典撮影

◆「学生全員が留学を」米にキャンパス置く名古屋大

 「留学先に名大のオフィスがある安心感が決め手になった」。名大教育学部3年で今夏からNCSUに1年間留学する田島千紗子さんはそう話す。昨夏にNCSUでの5週間の短期留学を経験。米国の講義や学生らに刺激を受け、長期留学を決め、首相に心理学を学ぶ意気込みを語った。  NCSUの名大キャンパスは昨年3月に設置。名大職員が常駐して学生をサポートする。両大は1985年から約40年、相互に留学生を受け入れ、共同研究も実践してきた。NCSUは特に工学が強く、州内でいずれも名門のノースカロライナ大チャペルヒル校、デューク大とともに全米最大級の工業地区「リサーチ・トライアングル・パーク」の一角を占める。  首相に名大キャンパスの意義を説明した杉山直(なおし)学長は「毎年入学する2千人超の学生に必ず一度は留学してもらいたい」と強調。「生活の立ち上げ支援など学生が安心して留学できる環境を整える」と意欲を示した。

◆「大学でできることには限界が」

 首相が海外の大学に足を運んでまで支援を強調するのは、成長分野をけん引するグローバル人材の育成に必要な海外留学への関心が下がっているからだ。2018年度の内閣府調査で「留学をしたいと思わない」若者は過半数を占めた。  内向き指向に、海外大の学費高騰や新型コロナ、円安がさらに拍車をかけている。文部科学省によると、直近21年度の日本人留学生(大学生など)は約1万人と、09年度以降で最も多かった18年度の1割。22年の同省調査で、留学に興味を持ちつつも踏み切れない理由として最も多かったのは「経済的な余裕がないから」で、8割を占めた。  名大は大学発スタートアップ(新興企業)を増やそうと起業家教育に取り組む。留学は学生が刺激を受けるきっかけにもなる。水谷法美(のりみ)副学長は首相の支援策を「費用面で大学ができることには限界がある。(支援策は)一歩踏み出したい学生の背中を押してくれるので、ありがたい」と歓迎した。

◆外国人学生の迎え入れも強化

 少子化が進み、海外大を巻き込んだ学生の取り合いが激しくなる中、国内外の若者にとって魅力のある大学づくりは、喫緊の課題。大学がこぞって大学名や学部・学科名に「国際」の冠をつける中、国際競争力を強化するには、日本人学生を送り出すだけでなく、外国人学生を迎え入れることも不可欠だ。  名大はこの点、ノースカロライナ州に別途、米国事務所も設けており、NCSUの名大キャンパスと合わせて、名大に留学する現地の学生増加に向けた取り組みも強化していく。 

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