10日、ローマで欧州議会選の結果について記者会見する右派の指導者、イタリアのメローニ首相=AP

欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会の選挙が6〜9日に行われ、極右や右派のEU懐疑派が躍進した。多国間主義の象徴だった欧州政治の変化を映しているといえる。内向きな政治の危うさは欧州に限った現象ではなく、国際社会への警鐘と捉えるべきだ。

欧州市民の民意を問う今回の議会選は欧州政治の行方を占う重要な選挙となった。欧州人民党(EPP)など親EU派は過半数を維持したが、極右の会派「アイデンティティーと民主主義(ID)」や右派が議席を大きく増やした。

一方、フランスのマクロン大統領が所属する中道の「欧州刷新(RE)」や環境会派「緑の党・欧州自由連盟」が議席を大きく減らした。背景には物価の高騰や移民の増加、環境問題にEUが十分対応できていないとの反発がある。

今回の選挙結果で明らかになったのは、EU主導ではなく自分たちの手に政策を取り戻したいという民意の高まりでもある。こうした変化は自国優先や国家主義に流れるリスクをはらみ、内外に影響を与えることになろう。

まず、EUが世界をリードしてきた先進的な政策への逆風が強まる。化石燃料からの脱却と再生可能エネルギーの拡大をめざす「欧州グリーンディール」や、中東などからの移民の受け入れが一部修正を迫られる可能性がある。

さらに今回の欧州議会選ではすでに欧州で強まりつつあった右傾化の流れも浮き彫りになった。2022年にイタリアで右派政権が発足し、オランダでは23年の下院選で極右政党が第1党となった。

右傾化がさらに広がり、EU内に深刻な分断をもたらす事態は避けるべきだ。今回、極右政党の得票率が4割近くに達したフランスでは、マクロン氏が下院解散を決めた。改めて国民の信を問う意図は分かるが、かえって極右の国民連合(RN)の台頭を招きかねず、危険な賭けともいえる。

激変する世界情勢への影響にも警戒が必要だ。11月の米大統領選で「米国第一主義」を掲げるトランプ前大統領は、EUの右傾化を追い風にしようとするだろう。ウクライナ侵略を続けるロシアを利することがあってもならない。

日本政府は、中国への警戒からアジア関与を模索する欧州と協力を深めてきた。欧州政治が変化する中でも「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けてEUとの戦略的な連携を強化すべきだ。

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