16日、韓国・安山市で、セウォル号沈没事故10年に合わせて開かれた追悼式典=木下大資撮影

 【安山(アンサン)=木下大資】韓国で2014年に修学旅行中の高校生ら304人が犠牲になった旅客船セウォル号の沈没事故から10年となった16日、各地で追悼行事があった。「惨事を記憶して」。事故対応などを巡って政府との対立が続く遺族の悲痛な訴えが響いた。

◆遺族と政府の対立は解消されないまま

 2年生250人が亡くなった檀園(ダンウォン)高校のある京畿道(キョンギド)安山市。事故の記憶を継承する民間団体が主催する式典が開かれ、遺族や市民ら数千人が参加した。与野党の幹部らも出席した。  遺族でつくる協議会の代表で、娘の秀真(スジン)さん=当時(17)=を失った金鍾基(キムジョンギ)さん(58)は追悼の辞で「この10年の努力が無駄にならないように(事故を)忘れないで記憶してほしい」と訴えた。

セウォル号沈没事故から10年となった16日、韓国・安山市で開かれた追悼式典で黙とうする遺族ら=木下大資撮影

 事故を巡っては、22年に活動を終えた特別調査委員会が、安全管理体系の改善などを勧告。金さんは「社会が変わらないと再び惨事が起き、皆さんもいつ被害者や遺族になるか分からない」と語り、国家が市民の安全に責任を負う「生命安全基本法」の制定を尹錫悦(ユンソンニョル)政権に求めた。  事故後の救助活動に失敗した当局の責任者の処罰などを巡り、不満を訴える遺族と政府の対立が解消されない状況が、この10年間続いてきた。  直接の事故原因については、運航会社の無理な増改築や過積載により、船体が傾いた際の復原力が弱まっていたところに、操舵(そうだ)装置の故障で船が急旋回して転覆したとの見方が強い。ただ、文在寅(ムンジェイン)政権期に発足した特別調査委員会は明確な結論を出さず、遺族は追加調査を求めている。    ◇

◆「生存水泳教育」も義務化

 大勢の高校生を乗せたセウォル号が徐々に沈んでいく様子がテレビ中継された事故は、国民に衝撃を与えた。政府は4月16日を「国民安全の日」に制定。修学旅行の安全対策など、教育現場の取り組みを促すきっかけになった。  事故直後は全国で修学旅行がいったん中止され、教育省は、修学旅行を含む体験学習の安全確保に向けたマニュアルを作成した。学年全体で同じ目的地を訪れる従来の形式ではなく、原則として小規模なグループごとにテーマを決めて行き先を分散するよう推奨。150人以上の修学旅行を実施する場合は、安全に関する教育を履修した「安全要員」を生徒50人につき1人同行させ、自治体の点検と承認を得ることなどを定めた。  水難事故に備え、ライフジャケットを着て水に浮く「生存水泳教育」の導入も進み、2020年から全小学校で義務付けられた。 

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