G7サミット 開幕
岸田首相 ゼレンスキー大統領と個別会談を予定
<G7サミット 議論の焦点は>
岸田総理大臣は、日本時間の午後5時半ごろ、議長国イタリアのメローニ首相の出迎えを受けてG7プーリア・サミットの会場に入り、先ほどから、アフリカ開発や気候変動などをテーマにした討議に出席しています。そして、このあと日本時間の午後9時過ぎから、ゼレンスキー大統領も出席するウクライナ情勢の討議に臨みます。岸田総理大臣は、ウクライナの永続的な平和を早期に実現することが重要だと強調するとともに、ウクライナへの強力な支援と、ロシアに対する厳しい制裁を継続していく日本の立場を改めて伝えることにしています。そして具体的な取り組みの1つとして、中国がロシアに軍事転用可能な物資を提供しているという懸念が出ていることを受けて、中国国内の企業も含め、提供に関与した疑いのある団体に対し、新たな制裁を科す方針を説明するものとみられます。また焦点となっている制裁で凍結したロシアの資産の扱いについても、日本の考え方を伝えることにしています。岸田総理大臣は、今夜遅くには、ゼレンスキー大統領と個別に会談する予定で、殺傷性のない装備の提供など憲法の範囲内での防衛協力に加え、地雷除去やエネルギーの基盤整備といった復旧・復興支援を続けていくことなどを盛り込んだ2国間の協力文書を締結することにしています。
2022年2月にロシアがウクライナを軍事侵攻したことを受け、欧米や日本などはそれぞれの国内にあるロシアの個人や企業の資産を凍結する経済制裁を科してきました。このうち個人についてはプーチン政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪などが抱える預金や別荘、それに豪華船などが対象となり、資産凍結などの総額は、2023年3月の時点でおよそ580億ドル、日本円にして9兆1000億円以上に上っています。今回、焦点となっているのは欧米や日本がそれぞれの国内で凍結したロシア中央銀行が保有する2850億ドル、日本円にして44兆円規模の資産です。
ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアによってウクライナは破壊された。ロシアが代償を払わなければならない」などとして凍結した資産をウクライナ支援にあてるよう、くりかえし欧米側に求めてきました。G7は凍結資産の扱いについて協議を続け、先月開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議では資産そのものではなく、利子から得られる収益を活用することについて集中的な議論が行われました。
アメリカ議会によりますとロシアの凍結資産およそ2850億ドルのうち、アメリカの管轄下には40億ドルから50億ドルがあるとみられています。軍事侵攻が長引き「支援疲れ」も指摘される中、アメリカではことし4月、ロシアの資産を没収してウクライナ支援に活用することを可能にする法律が成立しました。法律では「ロシアの資産の没収や転用を行うアメリカ政府の取り組みは同盟国や友好国とともに行われるべきだ」としてG7やEUなどと連携して行うべきだとしています。ブリンケン国務長官は先月ウクライナを訪問した際に「プーチン大統領が破壊したものについては、ロシアが費用を負担しなければならない」と述べ、凍結資産を支援にあてる必要性を強調しました。一方でヨーロッパの一部の国からは、資産そのものを没収することへの懸念の声があがっています。このためアメリカは新たな案として、制裁で凍結したロシア中央銀行の資産の利子から得られる将来の収益も活用してウクライナの支援にあてることをG7各国に提案しました。アメリカはこの案により世界全体で最大500億ドル、日本円にして7兆8000億円以上を調達してウクライナの支援に充てたいとしています。資産そのものを支援にあてることに比べ、額は小さくなりますが、ウクライナに対してできるだけ早く支援することを優先させ、ヨーロッパに歩み寄った形です。
EUによりますと、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻後に欧米や日本などで凍結されたロシアの中央銀行の資産は、2600億ユーロ、日本円にして44兆円規模に上ります。このうち3分の2以上の2100億ユーロ、日本円にして35兆円規模がEUにあり、ベルギーにある決済機関「ユーロクリア」などで管理されています。
EUは凍結された資産の利子から1年ごとに得られる収益は多くて30億ユーロ、日本円にして5000億円あまりに上ると見込んでいて、先月、収益の90%をウクライナへの軍事支援にあてることなどで合意しています。G7の議長国でもあるイタリア政府関係者は、EUが資産の凍結を続けるには半年ごとにすべての加盟国の合意が必要なことから長期にわたって収益を活用する支援策を実現するためには、解決すべき点も少なくないと指摘しています。
欧米が凍結したロシアの資産の中には今回のG7サミットの議題になっている中央銀行の資産のほかにも、プーチン政権に近い「オリガルヒ」と呼ばれる富豪などが抱えている不動産や高級ヨットなどの資産も含まれます。このうちイタリアでは財務警察がおととし3月、北東部のトリエステでロシアの富豪に関係があるとみられる世界最大級の高級ヨットを差し押さえたと発表しました。また、おととし4月には別のロシアの富豪が所有する西部のサルデーニャ島にある豪邸を差し押さえました。資産価値は1億ユーロ以上、日本円で169億円以上にのぼるとしています。
フランスの経営大学院の教授で3年前までドイツ財務省で金融政策などを担当していたアーミン・シュタインバッハ氏は制裁で凍結しているロシアの中央銀行の資産そのものを没収してウクライナへの支援に使うことは、法的に認められない可能性が高いと指摘します。一方、資産の利子から得られる収益は、資産を管理する決済機関のものとみなされるため法的なリスクが低く、活用が可能だとの見解を示しています。そして一連の議論の背景について「アメリカとEUが置かれた厳しい状況を示していると言える。アメリカやEUは国内でウクライナ支援への支持が十分にないなか、ウクライナが死活的に必要としている資金を探している」と話し、アメリカやEUがウクライナ支援に政府の財源以外の利用を迫られていることのあらわれだと指摘します。また、アメリカが凍結した資産から将来得られる収益も含め最大で500億ドル、日本円で7兆8000億円を融資したい考えを示していることについて「ウクライナにかなりの金額を生み出せるため、よい解決策かもしれないが、戦争がいつ終わるかわからないというリスクが伴う。近く戦争が終わって、収益が無くなったときに、EUやアメリカは自分たちで融資を保証する必要がある」として、戦争が終わった場合には凍結した資産の解除を迫られ、G7は財政負担を強いられるおそれがあるという見方を示しています。
今回のサミットでは、懸念が強まっている中国メーカーによる電気自動車などの過剰生産問題について、G7で結束し、中国をけん制する姿勢をどう打ち出すかも焦点です。中国の過剰生産をめぐっては、アメリカが先月、中国製の電気自動車への関税をことし中に現在の4倍の100%に引き上げるほか、太陽光発電の設備は25%から50%に、半導体は来年までに25%から50%にそれぞれ引き上げると発表しています。
また、EU=ヨーロッパ連合も、中国から輸入されるEV=電気自動車について、暫定的に最大で38.1%の関税を上乗せする方針を発表しています。先月下旬に行われたG7財務相・中央銀行総裁会議では、共同声明のなかに過剰生産問題について「G7各国の労働者や産業、経済的な強じん性を損なう中国の非市場的な政策や慣行について懸念を表明する」といった内容が盛り込まれました。
今回のサミットでは、G7で結束し、中国をけん制する姿勢をどう打ち出すかが焦点で、調整が進められています。また、ウクライナ支援に向けて、ロシアの凍結資産から得られる利子などの利益をどう活用するかについても議論される予定で具体策を示せるかも注目されます。
G7プーリアサミットでは、「経済安全保障」をテーマにした議論も行われ、中国を念頭に、特定の国や地域の製品に過度に依存しないサプライチェーン=供給網の構築などをめぐって、一致できるかが注目されます。太陽光パネルや半導体などの分野では、中国を念頭に、特定の国や地域の製品が不当に安い価格で輸出され、競争上、優位になっているとして、その対応策が課題となっています。
今回のサミットで、日本は、特定の国や地域に過度に依存しないサプライチェーンを構築するため、製品の調達にあたっては、環境対策や人権上の配慮など価格以外の面も重視するよう訴える方針で、G7として一致できるかが注目されます。また、禁輸などの措置で相手国に圧力をかけるいわゆる「経済的威圧」に対抗するメッセージも打ち出せないか、調整が進められています。一方、貿易をめぐる紛争解決の制度で機能不全が続いているWTO=世界貿易機関の改革については、「年内に完全に機能する制度の実現」を目指すことを改めて確認する見通しです。
G7サミットでは、開発や利用が急拡大する生成AIをめぐっても議論が交わされる見通しです。会議で採択される予定の首脳宣言には、G7各国がAIの安全性に関する認証制度の創設に取り組むことを盛り込む方向で、調整が進められていることがわかりました。生成AIをめぐっては、文書や画像の作成などさまざまな業務の省力化につながることが期待される一方で、著作権の侵害や偽情報を拡散するリスクなどが指摘されています。G7では、去年の広島サミットで共通のルール作りを目指す枠組みとなる、「広島AIプロセス」の立ち上げに合意したほか、開発者を対象に、AIの能力や限界を明確にすることや、AIが作成したコンテンツかどうかを利用者が見分けられる手段の開発・導入などを求める「行動規範」をとりまとめています。
こうした中で、関係者によりますと、今回のG7サミットの首脳宣言では、「行動規範」を守ってAIの開発に取り組む組織を認証する新たな制度の創設に各国が取り組むことを盛り込む方向で調整が進められていることがわかりました。日本としては、「広島AIプロセス」を主導してきた立場から、議長国のイタリアなど各国とも連携しながら、今後、具体的な仕組みの詳細を議論していくことにしています。
今回のサミットでは、温室効果ガスの削減対策も主要な議題となります。脱炭素の実現とエネルギーの安定供給を両立させる観点から、石炭火力発電の削減などをめぐってどのようなメッセージを打ち出せるかが注目されます。脱炭素に向けた課題の1つとなっている石炭火力発電の削減をめぐっては、廃止を急ぎたいヨーロッパの国々と、排出削減の対策を講じたうえで、一定の活用は必要だとする日本との間で、意見の隔たりがあります。
ことし4月に行われたG7気候・エネルギー・環境相会合では、温室効果ガスの削減対策が講じられていない石炭火力発電について、「2030年代前半か、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるための目標に沿う形で段階的に廃止する」ことで合意していて、今回も意見が交わされるものとみられます。また、太陽光や風力などの再生可能エネルギーでは、2030年までに世界全体の発電容量を3倍に引き上げる目標を達成するための取り組みについて、議論が行われる見通しです。
原子力については、原発を活用していくとする日本やアメリカ、フランスと“脱原発”を実現するドイツとの間で政策の違いがあり、日本としては、原発を推進する国々との間で、原子力の活用や技術開発などで協力を確認したい考えです。このほか、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化するなか、エネルギーのロシア依存の低減をどう進めるかについても議論される見通しです。今回のサミットでは、脱炭素の実現とエネルギーの安定供給を両立させる観点から、これらのテーマをめぐって、どのようなメッセージを打ち出せるかが注目されます。
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