「世界最大の民主主義国」といわれるインドで、今月発足した第3次モディ政権。先の総選挙でモディ首相率いるインド人民党(BJP)が大きく議席を減らした背景には、物価高や若年層の高い失業率などがある。人口の8割を占めるヒンズー教徒の支持を固めるために推し進めてきたヒンズー至上主義色の強い政策にも、少数派イスラム教徒から「分断が進んだ」と不満の声が上がっている。(デリー首都圏で、藤川大樹、写真も)

◆モスク跡地にヒンズー教寺院を建設

 「BJPを支持している。モディはヒンズー教徒の権利を向上させてくれた」

15日、イスラム教徒が多いインド・オールドデリーのジャマー・マスジット周辺

 ニューデリー中心部の市場で携帯電話用品を売る男性(43)は周りの目を気にしながら、うれしそうにささやいた。モディ氏は総選挙前の1月、北部ウッタルプラデシュ州のアヨドヤにあるイスラム教のモスク跡地にヒンズー教寺院を建て、落成式を開いた。男性はこれを「とりわけ評価している」という。  総選挙は4月から7回に分けて投票が行われ、6月4日に一斉開票された。BJPの獲得議席は543議席中240議席で、前回選の303議席から63議席も減らした。単独過半数には及ばなかったが、与党連合としては293議席を獲得し、モディ氏は3期連続で首相に就任した。  現地では、モディ氏が進めてきたヒンズー至上主義への不満がくすぶる。オールドデリーのモスクで礼拝していたイスラム教徒の男性(35)は「モディ政権下で宗教間の溝は深まった。政治の話はしたくない」と口にした。

◆「願望と得られる仕事のミスマッチ」

 インフレや若年層の失業率の高さも、政権には逆風となった。  5月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比4.75%で前月の4.83%から鈍化したものの、食品を中心に高止まりが続く。

17日、インド・オールドデリーの路上に飾られたモディ首相のポスター

 また、国際労働機関(ILO)などが発表した報告書によれば、若者の失業率は教育水準とともに上昇。2022年の失業率は中等教育以上の若者で18.4%、大学卒業者では29.1%に上った。ILOは「教育を受けた若者の失業率は高く、彼らの願望と得られる仕事のミスマッチを反映している」と分析する。

◆政権10年「飽きが出るのは当然だ」

 ニューデリーの路上でおしゃべりをしていた18~20歳の5人組の学生は「学位を持っていても、スキルがなく、就職できない若者は多い」と口をそろえた。  一方、モディ政権の高官は「2期10年やれば、国民に『飽き』が出るのは当然だ。モディでなければ、もっと議席を減らしていただろう」と指摘。「確かに物価は上がっているが、それ以上に給料も上がっており、生活は厳しくなっていない」などと批判に反論した。 

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