アメリカ連邦最高裁は1日、2021年の米議会襲撃事件を誘発したとして起訴された共和党のトランプ前大統領が「大統領在任中の行動は刑事責任を免れる」として訴えた免責特権の適用について、公務に関しては免責を認めると判断した。一方、私的な行為には免責を認めず、適用範囲の審理は下級審へ差し戻しに。重大事件の公判開始は、11月の大統領選後にずれ込む可能性が高まり、トランプ氏への追い風となった。(ワシントン・浅井俊典)

◆大統領の免責巡り初判断

 トランプ氏は判断を受け「今日の歴史的な判断によって、私に対するバイデン(大統領)の魔女狩りはすべて終わるはずだ」と自身のソーシャルメディアに投稿した。免責の適用範囲の精査や弁護団の準備には最低でも数カ月かかる見通しで、大統領選前に公判が始まる可能性は極めて低くなった。ワシントン・ポスト紙は「トランプ氏の政治的勝利だ」と報じた。

トランプ前大統領(2022年撮影)

 ワシントンの連邦高裁は今年2月、免責を認めず、トランプ氏が上訴していた。最高裁は「大統領が憲法上の権限として行う公務に関しては免責される」と指摘。一方、「法の上にいるわけではない」として私的行為での免責は適用されないとした。最高裁が大統領の免責を巡る指針を初めて示した形で、個別の判断は連邦地裁に委ねられる。

◆在任中、最高裁判事の3分の2を保守派に

 終身制の最高裁判事9人のうち、判断に賛成したのは保守派の6人。リベラル派3人は反対した。トランプ氏は在任中、保守派3人を送り込んでおり、最高裁の保守化が進んでいた。  トランプ氏側が求めた全面的な免責は認められなかったものの、同氏にとっては想定以上の結果を手にしたといえる。議会襲撃事件の初公判は当初、大統領選の予備選が集中する天王山「スーパーチューズデー」前日の3月4日に設定されていた。議会襲撃は同氏が起訴された4つの事件のうち最も重大とされ、裁判が進めば大統領選への影響は避けられなかった。  事件を担当するスミス特別検察官が早期の審理を求める中、トランプ氏側は選挙戦を念頭に先延ばしを要求。保守派優位の最高裁が自身に有利な判断を下すことへの期待もあったとみられる。同氏が大統領に返り咲いた場合、自身が指名する司法長官に起訴を取り下げさせるとの見方もある。

◆バイデン氏「危険な前例」と非難も…

 対する民主党は打撃が続く。大統領選に向けた6月27日の討論会で、トランプ氏と直接対決したバイデン大統領が低調なパフォーマンスに終始し、党内は混乱。最高裁の判断は、一連の刑事事件での起訴を民主党のバイデン政権による「魔女狩り」と主張するトランプ氏をさらに勢いづかせる結果となった。  バイデン氏は最高裁判断後の緊急演説で、「大統領ができることに事実上制限がないことを意味するもので、危険な前例だ」と訴えた。しかし、存在感を増すトランプ氏に対抗できないとの危機感から、党内で大統領候補交代論が強まる可能性もある。 

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