◆議会襲撃事件以降増えた政治家への襲撃、脅迫
「私たちの国でこのようなことが起きるとは信じられない」。トランプ氏は事件発生から約2時間半後、自身の交流サイト(SNS)にこう投稿した。銃撃事件についてコメントを寄せたトランプ氏の公式SNS(スクリーンショット)
呼応するようにバイデン氏も緊急会見を開き「政治的暴力は認められない」と強調。大統領選で激しく戦う2人がそろって選挙活動中の暴力行為を非難した。 米国では近年、政治家への襲撃が絶えない。2021年にトランプ氏の支持者らによる議会襲撃事件が起き、2022年には民主党のペロシ元下院議長宅で夫が襲撃される事件が発生。議会警察によると、警護対象となる議員への脅迫行為は2023年に約8000件に上った。 こうした事実から、ロイター通信の5月の世論調査では、回答者の68%が「大統領選の結果に不満を持つ過激派が暴力行為に及ぶことを懸念している」と答えていた。◆共和党内の保守強硬派が勢いづく
ただ、一つ間違えばトランプ氏の命にかかわる大事件にもかかわらず、共和党から国内に数億丁出回る銃規制を求める議論は出そうにない。それどころか、銃撃したとされる容疑者の動機や背景が不明にもかかわらず、党の保守強硬派は早くもバイデン氏を事件と結び付けて攻撃を始めた。 トランプ氏の副大統領候補に名前が挙がるバンス上院議員は「事件はバイデン陣営が『独裁主義のトランプの返り咲きを何としても阻め』とあおったせいで起きた」と主張。スコット上院議員も「急進左派と企業メディアによって引き起こされた」と自説を展開した。 さらに、ニュースサイト、ポリティコが8日、大統領選討論会で不調だったバイデン氏が献金者との電話で「討論会の話はもういい。トランプを狙い撃ちにするときだ」と話した、と報じたことを引き合いに「バイデンが指示を出した」(コリンズ下院議員)と根拠なく主張する意見が上がるなど、党派間の対立を助長する動きが出ている。◆穏健派が声を上げにくくなり「トランプ党」化進む
ニュースサイト、ポリティコは「トランプ氏の振り上げた拳は歴史を作るだろう」という見出しで事件を報じた(スクリーンショット)
アメリカ大統領史に詳しいライス大のダグラス・ブリンクリー教授はワシントン・ポスト紙の取材に「米国民は逆境の中で不屈の精神と勇気を見せる人物を好む傾向がある。銃撃後にトランプ氏が拳を掲げた姿は大統領選の象徴的な場面となるだろう」と指摘する。 傷を負ったトランプ氏が15日からの共和党大会に出席すれば、党内の結束が強まり、選挙戦終盤に向けて勢いづく公算が大きい。米メディアは、大統領選での勝利を早くも確信する党所属の議員らがいる、と伝えた。 党内にはトランプ氏を敬遠する穏健派も一定数いるが、党大会は銃撃事件に話題が集中して穏健派が声を上げにくい雰囲気が生まれ、「トランプ党」の様相がより強まる可能性がある。 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。