【ミルウォーキー(ウィスコンシン州)=浅井俊典、鈴木龍司】トランプ前大統領(78)の副大統領候補に正式指名されたJ・D・バンス上院議員(39)は17日、当地で開かれている共和党大会で指名受諾演説を行った。バンス氏は「米国のために私たちができる最も重要なことはトランプ氏を再び大統領にすることだ」と述べ、同氏とともに「米国第一主義」を推し進める考えを示した。

◆「わが国は安い中国製品であふれ返っている」

バンス氏の公式ホームページ(スクリーンショット)

 13日に東部ペンシルベニア州で起きたトランプ氏の暗殺未遂事件について「トランプ氏がペンシルベニアの野原で立ち上がったとき、米国民も立ち上がった」と同氏を称賛。「彼の団結の呼びかけに私自身も応えたい」と語った。  「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」に位置する中西部オハイオ州の貧困家庭で育った生い立ちを紹介し、米国の労働者のために戦う姿勢を強調。「バイデン氏のような政治家たちが米国の製造業を衰退させた」と主張した。  さらに「わが国は安い中国製品であふれ返っている」と強調。中国に厳しい姿勢を打ち出し、国内の製造業を守ると約束した。同盟国との関係では「米国の寛大さを裏切る国にはただ乗りさせない」と話した。  バンス氏は白人労働者階級の悲哀を描いた自伝「ヒルビリー・エレジー」がベストセラーとなり、トランプ氏の支援を受けて2022年の上院議員選で初当選。トランプ氏を熱烈に支持する「MAGA(マガ)」の急先鋒(せんぽう)として知られる。トランプ氏は大会最終日の18日、指名受諾演説を行う。   ◇  ◇

◆白人労働者の支持拡大に焦点

 共和党の副大統領候補となった中西部オハイオ州選出のバンス上院議員は、17日の指名受諾演説で困難に満ちた自らの生い立ちを語り、苦境にあえぐ米国の労働者の代弁者となる姿勢を強調した。ラストベルトにまたがる激戦州の勝敗を左右する白人労働者らの支持拡大に焦点を絞り、トランプ前大統領の返り咲きを助ける構えだ。

オハイオ州で演説するトランプ氏=2020年1月

 「オハイオ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、そしてこの国の片隅で置き去りにされた皆さんに約束する。私は自分がどこから来たのかを決して忘れない副大統領になる」

◆貧困の生い立ち記した自伝は「必読書」に

 バンス氏は演説で、製造業が衰退したラストベルトの一角で育ったルーツを強調した。政治経験わずか2年足らずでの副大統領候補指名。貧しい白人労働者階級出身の経歴から「アメリカンドリームを成し遂げたと言われる」と自らを紹介した。 2016年に米国で出版された自伝「ヒルビリー・エレジー」は、20年大統領選でトランプ氏勝利の原動力となった白人労働者の現状を理解するための必読書とも言われる。貧しい家庭に、父親の不在と薬物中毒の母。貧困のループから抜け出せない憤りや苦しみに満ちた自身の経験から、「皆さんの未来、家族、国のために戦う」と訴えた。

◆ラストベルト以外では大きくリード

  前回20年大統領選で民主党のバイデン大統領との接戦の末に敗れたトランプ氏は今回、バンス氏に労働者や生産者の結集を期待しているとされる。南部ノースカロライナや西部アリゾナなどラストベルト以外の激戦州では世論調査でトランプ氏が5ポイント以上リード。バンス氏の出身地オハイオと隣接する激戦州ペンシルベニアやミシガンなど中西部で勝利できれば、トランプ氏の返り咲きに大きく近づく。

バイデン大統領=2020年2月

 20年大統領選の得票率は、ぺンシルベニア州でバイデン氏49.85%、トランプ氏48.69%、ウィスコンシン州でバイデン氏49.45%、トランプ氏48.82%など、ラストベルトの複数州でトランプ氏が僅差で敗れた。バンス氏の起用でこうした州の労働者票を上積みしたい考えだ。  大会でバンス氏の演説を聴いたオハイオ州の弁護士ドン・ロバーツさん(57)は「私たちが直面する問題を彼は自分の言葉で語った。若く雄弁で、トランプ氏の後継者になれる」と期待した。西部ワシントン州の代議員ブラデン・シスクさん(33)は「バンス氏が指摘したように置き去りにされた人たちが米国には確かにいる。彼が新たな視点をもたらしてくれることを望む」と語った。(ミルウォーキー・浅井俊典) 

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