6月に日本を訪れた外国人旅行者が月ごとで過去最多となり、中国からの訪日客も好調に推移する中、日本人の中国旅行に対するハードルの高さが際立つ。中国政府が日本に対して新型コロナウイルス禍に始めた短期滞在のビザ免除措置の停止を継続しているためだ。さらに中国で独自の進化を遂げたスマートフォン決済や近年進む統制強化も、訪中の足かせになっている。(北京・河北彬光、写真も)

◆ビザ申請で事前に指紋採取

 「ビザ申請がとにかく面倒くさかった」。6月にツアーで中国を旅行した名古屋市の女性(60)はこう不満を漏らす。事前に専用サイトで書類を作成し、名古屋市のビザセンターへ出向いて指紋採取などの手続きをしなければならない。愛知のほか岐阜や三重、福井、石川、富山各県の人も名古屋市のセンターで申請する必要があり、負担は決して少なくない。  「観光強国」を掲げる中国は昨年から今年5月にかけてフランスなど十数カ国にビザ免除を打ち出し、7月もオーストラリアなど3カ国を加えた。ただ日本はいまだ蚊帳の外。中国は日本に「相互主義」を主張し、中国人の日本ビザ取得に関して譲歩するよう迫り、日中間の交渉は平行線が続いている。

中国・北京で6月、観光客でにぎわう天壇公園。世界遺産に指定され人気の観光地だが、日本からの渡航のハードルは高い

 旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)によると、昨年秋以降、中国行きの個人のパッケージツアー利用者数はコロナ禍前の1%未満にとどまる。台湾が60%以上、韓国が100%を超える月もあるのに比べると客足の戻りは鈍い。同社の慶松光広さん(48)は「中国は都市によって雰囲気が全く異なり、魅力のある国。渡航の障壁が少しでも減るといい」と願う。

◆中国のアプリを入れないと決済が…

 中国のスマホ決済は近年急速に普及し、旅行でもウィーチャットペイやアリペイが不可欠だ。中国の銀行口座がないと使えない問題は改善され、国際クレジットカードをひも付けられるようになったが、一定額以上は手数料がかかる上にそもそも中国独自のアプリのため使い慣れないとの声が多い。

◆反スパイ法も懸念材料に

 加えて近年相次ぐ邦人拘束や反スパイ法も懸念材料になっている。10回以上の中国渡航歴がある愛知県の会社員男性(70)は、コロナ禍以降まだ渡航していない。「訪れたい場所は多数あるが、最近は統制が強化されて自由がない印象が強い」と話す。  中部国際空港(愛知県常滑市)と中国本土を結ぶ便は7月現在、6都市、週96便で、コロナ禍前に比べて都市数は4分の1、便数も半数以下にとどまる。中国便に詳しい航空会社幹部は「コロナ禍で人も機材も減り、足元の限られた資源を振り向ける先はどうしても需要が大きい地域になる。ビザ免除が復活しない限り、訪中旅行の回復は難しいのではないか」と見通した。  

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