韓国総選挙で保守系与党「国民の力」が大敗したのは、人事や政策を巡る尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の政治手法を、有権者が「強権的」と判断し拒否感を示したためだ。6割超の議席を得た革新系の複数の野党は、国会で主導権を握り攻勢に出る構え。3年の任期を残してレームダック(死に体)化が濃厚な尹政権に、国政の混乱を避けるよう柔軟姿勢を求める声も強まる。(ソウル・上野実輝彦)

◆不祥事に謝罪なし、国民感覚と落差

 「選挙を揺さぶったのは、大統領の傲慢(ごうまん)や意思疎通に欠けたリーダーシップだと言っても過言ではない」。尹政権に近いとされる保守系大手紙・朝鮮日報は、11日付の社説で明確に尹氏を批判した。

尹錫悦大統領(資料写真)

 検事出身で政治経験のない尹氏は「しがらみにとらわれず決断できる」(与党元国会議員)と評価される半面、独善的との批判も付きまとってきた。妻が高級ブランド品を受け取ったとされる問題で謝罪しなかったり、海兵隊員の死亡事故で責任を問われた前国防相を大使に任命したりといった国民感覚とかけ離れた対応で、「最大のリスクは大統領」(与党関係者)とまで言われていた。

◆与党の「大統領隠し」も効果なく

 与党はトップの韓東勲(ハンドンフン)氏を前面に出し尹氏の「争点化」回避を試みたが、奏功しなかった。特定の支持政党を持たない層が多く勝敗の鍵を握るとされたソウルなど首都圏では、122の議席のうち19しか獲得できず、有権者の反感の根深さが浮き彫りになった。  一方、革新系野党の「共に民主党」と「祖国革新党」は合計で187議席を得て、国会で法案を「迅速処理案件」に指定できる勢力を維持した。迅速処理は、通常の委員会審議などを経なくても一定期間がたてば法案を本会議に上程できる制度で、少数与党の抵抗手段がそがれることになる。

◆野党はさっそく「妻の疑惑」追及へ

 選挙で躍進した祖国革新党は11日、尹氏の妻の疑惑を解明するよう検察に要求。従わない場合は、国会が任命する特別検察官による捜査を行う「総合特別検察法」の国会提出を進めるとして、政府・与党をさっそくけん制した。

ソウル市竜山区の韓国大統領府=2022年12月

 共に民主党報道官も同日「民意の拒否が繰り返されないよう、国政を徹底的に監視する」と強調。政府・与党は引き続き、難しい国会運営を迫られる。

◆韓日議連会長ら落選、両国の懸案に影響も

 今回の選挙では、上川陽子外相と釜山で会談した朴振(パクチン)前外相や韓日議連の鄭鎮碩(チョンジンソク)会長ら、日本にゆかりの深いベテラン与党議員が落選。日韓関係の改善を重視する尹氏が政治決断した元徴用工問題の解決策への反発も、依然根強い。韓国外務省報道官は11日、「韓日関係に大きな変化はない」と述べたが、意思疎通や解決策の履行に支障が出る可能性は否定できない。  停滞が見込まれる尹政権が今後、政策遂行に必要なものは何か。韓国外大の李哉黙(イジェムク)教授は「側近や野党の意見に少しでも譲歩し、コミュニケーションをとっている姿勢を見せていくしかない」と指摘した。 

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