中国が人工知能(AI)分野で先行する米国を猛追している。行政機関での活用が始まるなど利用範囲が拡大し、東南アジアなど海外への進出も加速している。(上海で、石井宏樹)

◆「文心一言」動画も生成可能に

 「中国は常にAIの革新的な発展を精力的に推進してきた」。7月上旬に上海で開かれた国内最大級のAI展示会で、李強(りきょう)首相が強調した。過去最多の500以上の企業が参加し、最先端のAIを紹介した。

7月5日、上海で、生成AI技術で作成した動画を紹介するアリババグループのブース(石井宏樹撮影)

 検索大手の百度(バイドゥ)は生成AI「文心一言」の最新版を展示。これまで生成できるのは文字や画像だったが、最新版ではテーマに沿った20秒ほどの動画をつくれる。プレゼンテーション資料の作成も可能。担当者は「急速に性能が高まり、できることが増えている」とアピールした。  米企業が2月に動画生成AI「Sora(ソラ)」を発表して以降、開発競争が激化している。アリババグループの開発担当者は「中国のAIが生成可能な動画はまだ数十秒程度で、最長1分のソラには及ばない」としながらも「中国は進歩のスピードが速く、追いつけるはずだ」と自信を示す。

◆中東やアフリカのマーケット狙う

 上海の企業は、苦情電話の応答や行政文書の作成など行政機関に特化したサービスを打ち出す。上海の公安当局で利用されているという。「使うほど正確性は高まり、地方財政が厳しい中でコスト削減につながる」(担当者)

5日、最新のAI製品やサービスを紹介した上海の展示会(石井宏樹撮影)

 新たな市場を求めて海外進出も活発だ。中国企業は欧米などを避け、東南アジアや中東、アフリカに活路を見いだす。顔認証技術で知られる商湯集団(センスタイム)は、タイ語やアラビア語対応の生成AIの開発を進める。サウジアラビアと協力し、AIを活用したスマートシティー建設やデジタル上の旅行体験のサービス提供を目指しており、説明員は「非英語圏のAIは始まったばかりで発展の可能性は大きい」と期待を寄せる。

◆衝動的に動かない…指揮官の補佐役に

 軍事面でも生成AIの可能性への注目が高まる。  習近平(しゅうきんぺい)国家主席は3月の全国人民代表大会(全人代)で、人民解放軍の会議に出席し「新質戦闘力(新しい質の戦闘力)を十分に発展させなければならない」とげきを飛ばした。最先端産業の振興を意味する自身の経済スローガン「新質生産力」にちなんだ造語で、生成AIやビッグデータを活用して分析精度を高め、戦闘を有利に進める狙いとみられる。  香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、中国の国防に関する大学の研究室では、AI司令官に軍司令官の思考パターンを学習させ、大規模な戦闘シミュレーションに投入している。研究者は「AIは冷静に状況を分析、判断でき、衝動的な決断をしない」と利点を強調。米軍もAIを指揮官のサポート役に活用する研究を進めているという。


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