7月に入り国際社会ではトランプ前大統領の暗殺未遂事件やバイデン大統領の撤退表明、そしてイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイランで殺害されるなど次から次へと混迷を深めるような出来事が生じている。その一方でフランスのパリでは「平和の祭典」と称されるオリンピックが開幕したが、休戦規定を無視する形でロシアによるウクライナへの攻撃は続き、同様にイスラエルもガザ地区への攻撃を続けている。このような中で、最近の中国外交では世界が注目する2つの大きなことが起きた。
中東での影響力を高める中国外交
7月21日から23日にかけてパレスチナの二大派閥であるイスラム組織のハマスの代表団とパレスチナ自治政府の主流派ファタハの高官、さらに12のパレスチナのグループが中国の仲介によって北京で和解協議を行った。その後、中国外務省は「パレスチナの各派は分裂を終結させ、パレスチナの民族団結を強化することに関する北京宣言に署名した」と発表した。
この記事の画像(9枚)7月22日に行われた中国外務省の記者会見で報道官は次のように答えている。「中国は常にパレスチナ人の正当な民族的権利の回復という正義の事業を断固として支持し、パレスチナの各派が対話と協議を通じて和解を実現することを支持し、パレスチナが早期に団結と統一し、独立した建国を実現することを支持する。そのために中国はこれからも引き続き絶え間なく努力する」。
さらに中国共産党系の有力紙「環球時報」(7月24日付)は今回の「北京宣言」について「アラブ諸国外で締結された初めてのパレスチナ内部の和解文書」とし、中国が提供する価値観や方法論である「グローバル安全保障イニシアチブ」が世界の平和と和解の最大公約数になっていると報じた。
中国が自画自賛する一方で、長年対立しているハマスとファタハの関係はこれまでにもアラブ諸国が和解に取り組んできたものの実現はしておらず、今回の和解協議の実効性も不透明という見方もある。しかし、中国は2023年3月に外交関係を断絶していたサウジアラビアとイランを中国の仲介によって和解を果たし、外交関係を正常化することを合意させている。
「この時の外交は評価せざるを得ない」(日中外交筋の関係者)という声もあるように、サウジアラビアとイランの歴史的な関係改善に国際社会は大きな驚きを受けた。和解に立ち会った中国の王毅外相は「両国の関係改善が進むことを支持する」と強調し「中国は中東の発展を支援してきた」とその影響力を全世界に向けてアピールした。これと合わせ、今回の「北京宣言」も中東諸国を中心に大きな影響を与えたと言ってもいいだろう。
中国に対する期待を表明するウクライナ
「北京宣言」が発表されたのと時を同じくして、7月23日から25日の日程でウクライナのクレバ外相が中国の王毅外相の招きを受けて訪中した。ウクライナの外相が中国を訪問するのは2022年2月にロシアがウクライナを侵攻して以降、初めてになる。王毅氏は会談の中で「全ての紛争の解決は政治的手段によって実現しなければならない」と述べ「条件はまだ熟していないが停戦と和平交渉の再開において中国が建設的な役割を果たしていきたい」と強調した。
一方、クレバ外相は「ロシアが誠実に交渉する用意があるならウクライナも参加する準備があるが、今のところロシアにそのような用意はみられない」と指摘した上で「世界平和の勢力としての中国の役割は重要であると確信している」と中国に対する期待を表明した。
なぜウクライナの外相はこのタイミングで中国と会談を行ったのか。
その理由の一つにトランプ前大統領の暗殺未遂事件によって、トランプ氏が次期大統領に就任する可能性が高まったことが背景にある。トランプ氏はこれまでにロシアとウクライナの戦争を24時間以内に終わらせることができると何度も発言している。仮にトランプ政権が誕生し、アメリカの支援が止まり強制的に停戦となった場合、それはウクライナ政権にとって受け入れ難い条件となる可能性は高い。この為、少しでも良い条件を引き出すために今回のタイミングでロシアに影響力のある中国に楔を打ち込んだとみられている。
またウクライナは、2024年11月にも開催を目指している2回目の「平和サミット」に向けて前回、ロシアとの関係に配慮し欠席している中国に来てもらいたいという思いもあるだろう。少なくともウクライナが最大支援国のアメリカだけでなく、中国を戦略的に意識していることは間違いない。
仲介役としての存在をアピールする中国
7月だけを見てもパレスチナやウクライナの要人に限らず、中国に近いとされるヨーロッパ連合の議長国を務めるハンガリーのオルバン首相も北京を訪問するなど中国は積極的な外交を展開している。
中国外交を取材していると「人類運命共同体」という言葉を耳にする機会が少なくない。人類運命共同体とは習近平国家主席が2013年3月に打ち出した中国外交の大方針で「人類は一つの地球村に暮らし、歴史と現実が交わる一つの時空で生活している。この為、全人類の平和や安全、繁栄のために協力しよう」という理念だ。この理念を掲げ、実現しようとする中国外交に対して「西側諸国から見たら茶番に見えるかもしれないが、グローバルサウス(新興国・途上国)から見たら一定の影響はあり、その訴求力は無視できない」(日中外交筋の関係者)とその影響力を懸念する声もある。実際、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や中東情勢の悪化など国際社会が混迷を極める中で、中国は仲介役としての存在をアピールし続けている。
翻って、現在の日本と中国には長年に渡る歴史認識問題や尖閣諸島問題、さらには東シナ海の油田開発問題などがある。また最近の問題として日本人の拘束事案や処理水放出に伴う水産物の輸入禁止など懸案は山積している。これらは外交によって一つ一つ解決していくしかないが、国際社会で強かに実績を積み上げる中国とどのように対峙していくのか、日本の外交力が問われている。
【執筆:FNN北京支局 河村忠徳】
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