ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか。「BSフジLIVEプライムニュース」では識者を迎え、アメリカ・ヨーロッパ・ロシアから見た本音と平和への道筋、そしてインドの外交術と日本外交のあり方について議論した。

アメリカ大統領選がウクライナ支援に与える影響

竹俣紅キャスター:
アメリカ大統領選からバイデン大統領が撤退し、トランプ前大統領とハリス副大統領の戦いになるとみられる。直近の支持率は拮抗。次期大統領就任まで力の空白が生まれる懸念もあるが、プーチン大統領はどう見ているか。

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小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ハリスになり読みにくくなったとは思っているだろう。トランプ当選の場合も公言してきたことを全部やってくれるとは思わないが、アメリカ国内分断の動きは悪くないと思っていると思う。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
バイデン大統領やアメリカの力でロシアができずにいたことはそれほど多くない。力の空白が生まれても、プーチンにとってプラスとはならないと思う。

反町理キャスター:
トランプ当選の場合、対ウクライナ政策は劇的に変わるか。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
わからないが、その可能性はもちろんある。トランプ氏は「就任前に平和を勝ち取る」と言うが、就任前の人が二国間の和平を達成できるとは考えにくい。言うだけ言って現実がついてこないことは前のトランプ政権でもあった。ある種の方向性は出されると思うが。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
トランプが副大統領候補に非常に孤立主義的なバンスを指名したのは、ウクライナにとって不気味。だがバンスが対ウクライナ政策を決めるのではない。トランプがどういうチームを作るか。

反町理キャスター:
アメリカから見て、戦争の短期決着と長期化それぞれの国益は。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
短期的には、多額の対ウクライナ武器支援はアメリカ製の武器の輸出で、産業にお金が落ちている点が利益。中長期的には、ウクライナがかなり元に近い形で領土を取り戻せば、力による現状変更を認めず国際秩序の維持を達成すること、プーチンの威信を制し対中国の警告となる点が利益。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
世界秩序を作るポジションを国益と考えるか単なる重荷とするかによって国益の定義は変わる。アメリカ国内でかなり意見が割れていて、結果的にウクライナ支援も中途半端になっていると見える。

戦争長期化を呼んでいる“変な最適解”とは

竹俣紅キャスター:
NATO(北大西洋条約機構)首脳宣言の内容は「ウクライナのNATO加盟に向けた不可逆的な道を支援」「来年も7兆円規模の軍事支援を継続」など。プーチン大統領を刺激しないか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
面白くないと思っているだろう。ただ二つ問題があり、まずどのみちウクライナは当面NATOには入れないだろうということ。戦争をしている最中のウクライナを入れれば加盟国はロシアと戦争しなければいけない。また、そもそもこの戦争の動機はウクライナのNATO加盟阻止なのか。ウクライナがロシアでなくなった状態が問題だとプーチンは言っており、その一部にNATOの話が絡んでいるというのが私の理解。

反町理キャスター:
今すぐの加盟が無理なら、NATOの約束に意味はあるか。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
「不可逆的」は、ウクライナは将来的な加盟から逆算し今すべきことを考えるための約束。すぐ効果はないが、将来に向けた判断をする場合の基準が示されたのだと思う。

竹俣紅キャスター:
一方、6月14日にプーチン大統領は演説で具体的な停戦の条件を示した。「ロシアが一方的に併合した4州からウクライナ軍を完全撤退させること」「ウクライナがNATOへの加盟計画を放棄すると正式に表明すること」など。ウクライナが受け入れれば直ちに停戦命令を出し和平交渉を始めると言及したが。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
プーチンはウクライナをある種の属国化、抵抗しない存在にしたい。和平交渉はウクライナが独立国としての存在を諦めることが前提。ウクライナは受け入れられない。停戦をしても、プーチンの最終的な目標がウクライナ全土のコントロールなら和平が恒久化される保証がない。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ウクライナから見て短期収拾を望むことは「プーチンの平和」を受け入れること。手も足も出ないなら呑むしかないが現状そうではない。NATO側は相当分裂しながらも「ウクライナが主権を失う形で負けることは容認しがたい」という点だけはギリギリ一致している。ロシア側は押しながらも苦しいが、戦争ができないわけではない。これらの変な最適解として戦争が長引いてしまっている。

西側諸国に対し“高をくくる”インドの自信の根拠は

竹俣紅キャスター:
インドのモディ首相は、NATO首脳会議と同時期に約5年ぶりにロシアを訪問。プーチン大統領との会談の冒頭で「爆弾・ミサイル・銃は平和を保障しない。対話が不可欠だ」と主張、プーチン大統領は謝意を示した。モディ首相の狙いは。

伊藤融 防衛大学校国際関係学科教授:
2023年にG20の議長国だったインドは西側の目を気にして行けない状況だった。今年はインドの選挙が終わりプーチンも再選され、行きやすかったのでは。NATO首脳会議に喧嘩を売るような訪問になるとはわかっていたが、ロシア優位の状況になりつつあり、西側で支援疲れが起きており、トランプ当選ならウクライナが見捨てられるという見方から勝ち馬に乗る意図もあったといわれる。だがハリスが出てきて、またキーウの病院への攻撃で子供が犠牲になりロシアへの批判が出たことが計算外だった。インドは戦争が長期化されてロシアが弱体化すると困る。早くやめてほしいのが本音。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
最大の仮想敵国である中国が何かしようとしたとき、ロシアがそれを諌めてくれることがインドにとって重要。ロシアの弱体化は望ましくない。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
戦争が始まってから、ロシアは国際秩序を乱す国であるとしか扱われてこなかった。だが国連常任理事国でもあり、ユーラシアではロシアが秩序の安定要因であった場所や場面もそれなりにある。元のロシアに戻ってくれというグローバルサウスの態度は、割に正直なところでは。

竹俣紅キャスター:
2023年9月のG20首脳会議でインドが議長国としてまとめた首脳宣言では「いかなる国の領土・主権・政治的独立に対して領土取得のための武力威嚇・行使は控えなければならない」として、ロシアを名指しで非難せず。

伊藤融 防衛大学校国際関係学科教授:
長いスパンで見れば、インドにとってロシアの重要性は低下傾向。だが現時点で、インドにとってロシアは西側の国との関係が悪化したときの保険であり、関係を有利に動かすテコ。中国とパキスタンという敵がいる状況下で、インドはイランの港からアフガニスタンや中央アジアを繋ぐ経済回廊を構想している。原油などを買う相手のロシアとも、中国やパキスタンを通らず繋がれる。ロシアを名指ししない首脳宣言に対する西側の不満があるとインドはわかっているが、西側にとって対中国が脅威ならば絶対に見捨てられない確信がある。

反町理キャスター:
言葉は悪いが、このインドの西側に対する高のくくり方はどうか。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
それがインド外交のリアリティなのだと思う。とりわけ対米関係でインドはわがままを許されてきた印象がある。

伊藤融 防衛大学校国際関係学科教授:
インドは実利を徹底追求する外交を展開してきた。また今インドの価値が西側の中で高まっている。GDPもまもなく日本とドイツを抜いて3位になる。核保有国で、中国に唯一対抗できるパワーになり得る。だからインドの言い分が通りやすくなっているという構造的な話。

日本はロシアに対し独自の対話を模索すべきか

竹俣紅キャスター:
ウクライナ戦争に対する各国の姿勢を見てきたが、あるべき日本の姿勢は。

伊藤融 防衛大学校国際関係学科教授:
現状では西側と歩調を合わせ国際秩序を守ることが最も重視されている。他方、今後10〜20年先に中国がどういう存在になり、対してロシアがどういう国であるのが望ましいかという観点の議論がされていないと思う。ロシアとの対話の可能性も探ることは必要。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
重いご指摘。ただ、ロシアを厳しく追い詰めない戦略は一度安倍政権でやっている。クリミア半島侵攻とドンバス紛争の後にあまり厳しい制裁をかけなかった。安倍さんの戦略的チャレンジ自体は高く評価されるべきだが、結果として領土問題も動かず中露の接近阻止はできなかった。日本が単独で今ロシアに甘く出ても、この先10〜20年に日本にとって大きな戦略的利益はないだろうと思う。

鈴木一人 東京大学公共政策大学院教授:
どの国にもロシアとの経済関係はあり、いきなり全て切るのは現実的ではない中で、G7もできる範囲でじわじわ制裁をかけてきた。それがリアリズムだと思う。制裁は政治的なメッセージを伝える意味でも非常に重要。

反町理キャスター:
インドから日本の外交はどう見えるか。

伊藤融 防衛大学校国際関係学科教授:
なぜ「これが自国の利益になるからこういう政策を取る」と発想しないのか、と見ている。我々には同盟関係がないからこそそれができると。だが、日本はともに先進国であるアメリカと利害が一致する部分が多いが、インドの場合はそのようなパートナーがいない。
(「BSフジLIVEプライムニュース」7月31日放送)

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