【ソウル=木下大資】韓国政府の調査機関「真実・和解のための過去事整理委員会」は7日、1959~84年に約9万3440人の在日朝鮮人らが北朝鮮に渡った「帰還事業」に関する調査結果を発表した。「北朝鮮が差別のない地上の楽園」とする偽りの宣伝が組織的に行われ、だまされた大勢の帰還者やその子孫が人権を侵害されたと公式に認定。北朝鮮の政権と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)に「一次的な責任がある」と非難した。

 真実・和解のための過去事整理委員会 韓国政府が設置した独立機関。革新系の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権期の2005年、真実・和解のための過去事整理基本法に基づき設立され、2010年に第1期の活動を終えた。2020年に第2期委員会が発足。過去の軍事政権による人権弾圧などを調査し、真相究明や被害者の名誉回復に取り組んでいる。

ソウルで2022年、「真実・和解のための過去事整理委員会」に申請書を提出後に会見する川崎栄子さん(中央)ら=木下大資撮影

 日朝間の帰還事業に対し、韓国として調査を実施したのは初めて。調査を求めた脱北者らへの聞き取りのほか、当時の韓国政府が作成した公文書や日本側の資料などを分析した。  その結果、帰還事業に際しては個人の意思を確認する機会が不十分で、意思に反して乗船させられた人もいたと指摘。帰還者の多くは首都平壌(ピョンヤン)以外の協同農場や鉱山などの労働者として配置され、「敵対階層」と見なされて監視や差別を受けたと確認した。  委員会は、日本政府と日本赤十字社に対しても「北朝鮮の現実と帰還事業の実態を確認できたのに事業を支援・持続させ、人権侵害を容認した」と批判。仲介役だった国際赤十字委員会も「役割を果たせず、傍観した」と指摘した。また、国連に対し、帰還者とその家族の被害や行方などを調査するよう要請した。  帰還事業で北朝鮮に渡った在日2世で、2003年に脱北した川崎栄子さん(81)=東京=は「韓国政府の正義に対する理念をはっきりと示した決定で、国際社会に大きく影響すると思う」と喜んだ。 

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