タイのペートンタン新首相は父のタクシン元首相に助言を仰ぐと公言している(16日、バンコク)=沢井慎也撮影

タイのセター首相が司法判断で失職に追い込まれ、後任にペートンタン新首相が就任した。同じタクシン元首相派の最大与党・タイ貢献党からの選出で、親軍政党との連立枠組みは維持された。

タイは人件費上昇に産業高度化の遅れが重なる「中進国のワナ」に陥り、経済成長が鈍化している。東南アジア主要国で最低水準の成長率の底上げへ、これ以上の国政の停滞は避ける必要がある。

セター氏は4月の内閣改造で起用した閣僚に犯罪歴があったことで任命責任を問われた。国軍の影響が色濃い憲法裁判所が14日、倫理規定違反だとして解職を命じ、約1年の短命政権に終わった。

16日に下院で後任首相に指名されたペートンタン氏はタクシン氏の次女で、就任時の37歳は同国史上で最年少だ。タイ貢献党が昨年の総選挙でセター氏と並ぶ首相候補に据えたが、経営者出身で政治経験は乏しい。タクシン氏の助言も仰ぎつつ政権運営にあたる。

タイは長年、タクシン派と国軍を中心とする反対派が対立し、政情が安定しなかった。タクシン氏は2006年に軍事クーデターで失脚し、その妹のインラック元首相も政府高官人事を巡る司法判断で14年に失職した経緯がある。

汚職罪を逃れて国外逃亡していたタクシン氏は昨年、15年ぶりに帰国し、恩赦で自由の身となった。水面下で国軍との密約が成立したとされ、現在の大連立につながった。とはいえ両者の間にはなお緊張関係が残る。

今月7日には昨年の総選挙で若者の支持を得て比較第1党に躍進した最大野党の前進党が、王室を巡る不敬罪改正の公約が違憲だとして憲法裁から解党命令を受けた。軍や司法の度重なる政治介入を外資はリスク要因とみなす。

タイは約6千社の日本企業が集積するアジア有数の製造拠点だ。しかし長引く政情不安は、ベトナムやインドネシアに投資を奪われる一因となっている。国際競争力の回復には、民主化の定着や政情安定が近道だと認識すべきだ。

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