【シカゴ=浅井俊典、鈴木龍司】11月の米大統領選に向けた民主党の党大会が19日、中西部イリノイ州シカゴで開幕した。バイデン大統領(81)が高齢不安を払拭できずに7月に再選を断念し、党大会を前に異例の手続きでハリス副大統領(59)を党候補に正式指名した党は、共和党候補のトランプ前大統領(78)との対決に向け挙党態勢をアピールする。

◆「この先の数十年を左右する決断」

 ハリス氏は演説で「私たちは一つになり、前に進む。大切にしている理想のために戦おう」と、党の結束を呼びかけた。中間層の生活水準向上を目指した経済政策や人工妊娠中絶の権利擁護などを盛り込んだ党綱領も採択した。

15日、米東部メリーランド州ラーゴで開かれた集会でバイデン大統領とともに登壇するハリス副大統領(中央)=浅井俊典撮影

 初日の基調演説を行ったバイデン氏は「民主主義を守らなければならない。私たちがいま下す決断が、この先何十年もの米国と世界の運命を左右する」と訴え、ハリス氏への支持を求めた。また、2016年の大統領選で主要政党初の女性大統領候補となり、トランプ氏に敗北したヒラリー・クリントン元国務長官(76)も演説し、当選すれば女性初の大統領となるハリス氏にエールを送った。  党大会は4日間の日程で、副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事(60)が21日、ハリス氏が最終日の22日に指名受諾演説を行う。   ◇ ◇

◆「何よりもトランプを倒してほしい」

 19日に始まった米民主党大会でバイデン大統領は「何よりもトランプを倒してほしい」と述べ、ハリス副大統領に大統領職の継承を託した。ヒラリー・クリントン元国務長官は「私たちは最も高く、硬いガラスの天井に多くの亀裂を入れてきた。ついに破る寸前まで来た」と強調。民主党は女性初の大統領誕生に向け、世代交代と多様性を前面に打ち出し、共和党のトランプ前大統領打倒に向けて結束を図る。(シカゴ・浅井俊典)

イリノイ州シカゴで19日に開幕した民主党大会で、ハリス氏への支持を呼びかけるヒラリー・クリントン元国務長官(鈴木龍司撮影)

 バイデン氏は、「ハリス氏を副大統領に選んだことは、私のキャリアで最高の決断だった」と強調。2人で取り組んだ政権の成果や50年に及ぶ自らの政治生活を振り返り「アメリカよ、私は全力を尽くした」と、50分間に及ぶ演説を締めくくった。

◆ロス初の黒人女性市長らも登壇

 党大会では、次世代にバトンを渡したバイデン氏の決断を称賛する演説が相次いだ。急きょ登壇したハリス氏も「歴史的なリーダーシップと米国への生涯の奉仕に感謝します」とたたえ、聴衆も割れんばかりの拍手と大歓声を送った。  クリントン氏は、ハリス氏が米国の多様性を象徴する候補だと訴えた。  自ら、トランプ氏に挑み、女性の社会進出を阻む目に見えない「ガラスの天井」を突破しようとしたものの成し遂げられなかったクリントン氏。「今、(ガラスの)ひびの向こう側に自由が見える」と、ハリス氏に夢の実現を託した。  この日は、ロサンゼルス市で初の黒人女性市長となったカレン・バス氏、民主党左派でヒスパニック系女性のオカシオコルテス下院議員らも登壇し、党の多様性をアピールした。

◆潮目変わり?止まらぬ不適切発言

 こうした民主党の戦略は今のところ功を奏しているようだ。米政治分析サイト、クック・ポリティカル・リポートが14日に公表した世論調査によると、激戦7州のうち6州でハリス氏の支持がトランプ氏と同等以上になった。5月の調査ではトランプ氏が全7州でバイデン氏を上回っていたが、候補者交代が形勢を逆転させた。

7月18日、米ウィスコンシン州ミルウォーキーで、共和党大統領候補の指名受諾演説に臨むトランプ氏(鈴木龍司撮影)

 トランプ氏は演説でハリス氏を「間抜け」「ずっとインド人だったのに、急に黒人に変身した」などと批判。共和党内からもハリス氏の個人攻撃を控えるように要請される中、止まらない不適切発言は焦りの表れと受け取られている。

◆候補差し替えのドタバタも露呈

 ただ、この日に採択された党綱領は、公約実行の主語が「バイデン氏」のままになっており、異例の出馬に至ったドタバタぶりが際立った。  トランプ氏は早速、自身の交流サイト(SNS)で「なんて愚かなことだ」と批判。民主党大会の熱気がこのまま続くとは限らず、ハリス氏にはバイデン氏の政策路線を継承しつつも、独自の具体策を打ち出すことが求められそうだ。 

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