アメリカ民主党が現在開会中の党大会で採択した党綱領は、共和党のトランプ前大統領(78)の政策を厳しく批判し、民主主義の堅持や人権の擁護に力点を置いている。ただ、バイデン大統領(81)の撤退表明前にまとめられたため、党候補となったハリス副大統領(59)の独自色は乏しく、否定的な見方も根強い。(イリノイ州シカゴ・鈴木龍司)

◆トランプ氏との対決姿勢鮮明

 党綱領は、トランプ氏の返り咲きを「民主主義の脅威だ」と訴えてきた選挙戦略に沿って、今回の大統領選を「より自由な国か、より自由でない国か」の選択と位置付けた。共和党が強い各州で禁止の動きが広がる人工妊娠中絶の権利擁護をはじめ、黒人や性的少数者の差別の撲滅や支援などを相次ぎ打ち出している。  共和党との違いが特に際立つのが経済・財政政策で、低所得者層の底上げや中間層への支援などバイデン政権の主要政策が並ぶ。  その財源確保に向け、トランプ氏が大統領在任中に35%から21%に引き下げた法人税率を28%に引き上げる方針を示した。物価高対策でも、企業の不当な価格つり上げの取り締まりなどを盛り込み、トランプ氏を「友人や億万長者の献金者のために経済を不正に操作している」と非難した。

◆イスラエルへの軍事支援のあり方には触れず

 また、電気自動車(EV)の普及促進を含め、積極的に気候変動対策に取り組む点でもトランプ氏との違いを鮮明にしている。  世論の反発が強い不法移民については、連邦議会に国境管理を厳格化する法案の可決を求める一方、合法的移民の拡大を目指した。  外交・安全保障では北大西洋条約機構(NATO)や日本を含めたインド太平洋諸国との同盟関係を引き続き重視し、ウクライナへの支援も継続する。若者らの反発が強いイスラエル支援ではパレスチナ自治区ガザの停戦合意を重視し、「2国家共存」の和平を目指すとした。ただ、イスラエルへの軍事支援のあり方には触れなかった。

バイデン大統領(左奥)とともに登壇するハリス副大統領=15日、アメリカ東部メリーランド州ラーゴで(浅井俊典撮影)

 中国との経済関係では「不正な経済慣行に対抗する」と強硬姿勢を示す一方、関係を「切り離す」のではなく「リスクを取り除く」と明記。「責任を持って関係を管理する」として、大幅な関税引き上げをいとわないトランプ氏との違いを打ち出した。

◆「党内対立を回避するため修正見送った」見方も

 「バイデン政権の2期目では…」。約90ページの民主党綱領には、バイデン氏の続投を前提にした表現が20カ所近くある。  党は「バイデン氏とハリス氏の歴史的な業績を示し、次の4年間に向けたビジョンを掲げている」と説明するが、CNNテレビは「バイデン氏の撤退後、この文書は更新されていない」として、党内の対立を回避するために綱領の修正を見送ったとする関係者の見方を伝えた。  AP通信は「ハリス氏は具体的な政策姿勢をわずかしか示していない」と指摘。トランプ陣営も「ハリス氏は自身の政策がないことを公然と認めている」と攻撃材料にしている。 

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