国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングした状態の宇宙船「スターライナー」(NASA提供)=AP

【ヒューストン=花房良祐】米航空宇宙局(NASA)は24日、6月初旬に国際宇宙ステーション(ISS)に送り込んだ米航空宇宙大手ボーイング製の新型宇宙船「スターライナー」の有人での地球帰還を断念したと発表した。推進装置などに不具合が発生したためで、テストパイロットを務める宇宙飛行士2人は2025年2月に別の宇宙船で地球に帰る。民主導への転換を進めてきた米国の宇宙開発に打撃となりそうだ。

NASAのネルソン長官は24日、「(宇宙飛行士の)安全を最優先した」と述べた。スターライナーはNASAがボーイングに開発を委託した新世代の宇宙船だ。ISSに宇宙飛行士や物資を運ぶ役割を期待されていた。同社は今後もスターライナーの開発を続ける方針。

22年に無人でISSとの往復に成功した。24年6月5日に初めて人を乗せて宇宙に打ち上げ、翌6月6日にはISSに到着していた。当初は8日ほどで地球に帰還する予定だった。

今回の問題はISSに向かう途中で起きた。全部で28ある推進装置のうち5つが正常に動かなくなった。4つは修理できたが、1つは使用できない状態となった。

NASAとボーイングは原因の究明を続けていたが、燃料タンクの圧力制御に使うヘリウム漏れも発生した。米国の地上施設で推進装置の再現テストを繰り返した結果、安全性への懸念が拭えなかった。

スターライナーの帰還断念を受け、ISSで待機中の宇宙飛行士2人は別の宇宙船を使って地球に帰る。代替手段は著名起業家イーロン・マスク氏が率いる米宇宙開発スペースXの宇宙船「クルードラゴン」で、24年9月に打ち上げ、25年2月に2人を乗せて地球に帰還する。

宇宙飛行士2人のISS滞在は当初計画を大幅に超え、計8カ月程度に延びる見込みだ。

ISSには通常、各国から7人程度の宇宙飛行士が集まり、各種実験やステーションの操縦・整備に携わっている。クルードラゴンやロシアの宇宙船「ソユーズ」が半年おきに宇宙飛行士を乗せてメンバーを入れ替えている。

スターライナーの2人は海軍出身のベテランで、宇宙滞在も複数回経験している。25年2月まではISSの保守点検など通常業務に加わるもようだ。ISSは現在、この2人を含めて9人体制となっているが、貨物船で定期的に物資を補給しており、NASAによると水や食料、空気は十分ある。

米国の宇宙開発は長くNASAが中心となり、月への有人飛行やスペースシャトルなどの運用で世界をリードしてきた。しかし11年に老朽化したスペースシャトルを退役させ、今後は新型宇宙船の開発を民間企業に委ねる方針に転換した。

NASAはISSへの新たな輸送手段として、ボーイングに有人宇宙船の開発を依頼した。契約額は42億ドル(約6000億円)にのぼるが、開発は遅れ、ボーイングはこれまで計約16億ドルの損失を計上している。損失は一段と拡大する恐れもある。

スターライナーの安全性を巡っては、NASAとボーイングの間で意見の食い違いも表面化していた。ボーイング社内では不具合の発生後も有人帰還は可能とする評価があったが「リスクがある」と懸念するNASAとの溝を埋めきれなかった。

ボーイングの事業が滞れば、月面開発や火星への有人飛行をめざす米国政府とNASAは計画の修正を迫られかねない。国を挙げて関連産業の育成を推し進める中国やインドとの開発競争も激しさを増している。

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