タイの憲法裁判所が、4月の内閣改造を巡り、セター前首相の解任を命じ、新首相にタクシン元首相の次女で最大与党・タイ貢献党党首のペートンタン氏が就いた。憲法裁はこれに先立ち、最大野党・前進党の解党も言い渡した。司法による政変の背景には何があるのか。チュラロンコン大政治学部のピット・ポンサワット准教授に聞いた。(バンコク・藤川大樹)

チュラロンコン大でインタビューに応じるピット・ポンサワット准教授=藤川大樹撮影

 ―国際社会や国民から批判が多い憲法裁の二つの判決をどう分析する。  「エリート(既得権益)層から見れば、判決はタイの政治に安定をもたらしたことになる。『エリート・ネットワーク』はいまだタイで大きな力を持つ」  「もし前進党が解党されなければ、エリート・ネットワークに支配されているタイは、(王室への侮辱を禁じる)不敬罪を定めた刑法112条を巡り、大きな困難に直面していただろう。それは君主制だけでなく、軍や保守派など『君主制を権力として利用する』人々への挑戦となる」

◆「タクシン氏は適切な行動の取り方を知らない」

 ―タクシン氏はなぜこれほど政治に関与するのか。
 
 「貢献党の人気は低下しており、タクシン氏は『政治ゲーム』を余儀なくされている。彼は他の政党や議会外の権力と交渉する力を確実に広げ、連立政権の中で最大与党であり続けなければならない。彼が何もしなければ、今の立場を維持できる保証はない。問題は、彼が適切な行動の取り方を知らないことだ」  ―ペートンタン氏の首相就任でタクシン氏の影響力は増すのか。  「彼が昔のような力を発揮できるわけではない。貢献党はもはや最も人気のある政党ではない。貢献党が連立政権で主導権を握ることができたのは、国民の間で人気が低かった親軍政権に加わるという厳しい決断をしたからだ。タクシン氏は議会内外で既存の権力構造と交渉する必要がある」

タイのタクシン元首相㊧と次女のペートンタン新首相(2023年8月)

◆政治指導者の何人かを失脚させたいという思惑

―前進党解党を民主主義の後退と見る向きがある。  「あまりそうは思わない。エリートに支配されたままではあるが、タイの政治システムが求める安定性は得られるからだ。保守派は前進党が解散しても新党が誕生し、人気が出ることを知っている。彼らはこのゲームで政治指導者の何人かを失脚させたいのだ。国民の意思を否定することはできないが、誰かを失脚させることはできる」  ―上院選の結果、与党第2党のタイの誇り党の上院での影響力が強まった。  「上院は重要法案を審議したり、憲法裁判所や国家汚職防止委員会などの独立機関の人事を承認したりする権限を持つ。政府が法律を成立させたいのであれば、誇り党と妥協しなければならない。誇り党はこのゲームで最大の利益を上げる方法を知っている」  ―国家汚職防止委員会が、不敬罪改正法案を提出した44人の旧前進党議員らを調査している。  「44人が政治的に生き残ることができるかどうかは分からないが、失っても党勢は衰えないだろう。革新的な人々だけでなく、穏健な保守層も変化を求めて後継政党に投票するとみられる。彼らはタクシン氏や誇り党党首のアヌティン氏を信用していないからだ」 

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