【ピッツバーグ=浅井俊典】アメリカ大統領選の民主党候補ハリス副大統領は2日、東部ペンシルベニア州ピッツバーグで演説し、日本製鉄による米国の鉄鋼大手USスチールの買収計画について「国内で所有・運営される米国の鉄鋼企業であり続けるべきだ」と述べ、外国企業による買収に反対する考えを示した。買収に不安を覚える鉄鋼労働者側に立つ姿勢を強調し、激戦州の労働者票を呼び込む狙いがあるとみられる。

ハリス副大統領(資料写真)

 ハリス氏はバイデン大統領とともに労働組合の関係者ら600人以上が集まった集会に出席。「強い米国の鉄鋼企業を維持することはわが国にとって極めて重要だ。米国の鉄鋼労働者に寄り添う」と述べた。  USスチールの買収計画を巡っては、バイデン氏が今年3月に反対を表明しており、ハリス氏もこれに続いた形だ。ハリス氏の演説に先立って登壇したバイデン氏は「USスチールは100年以上にわたって米国を象徴する企業であり、これからも米国の企業であり続ける」と繰り返した。

◆USスチールの本社所在地で労組票の争奪戦

 ペンシルベニア州は大統領選の行方を左右するとされる激戦州の一つで、ピッツバーグにはUSスチールの本社と全米鉄鋼労働組合(USW)の本部がある。USスチールの従業員も含め北米で約120万人の組合員がいるUSWは、買収計画に強く反対。共和党のトランプ前大統領も買収を「阻止する」と発言するなど、労組票の争奪戦が激化している。    ◇

◆アメリカンドリームをかなえる経済の構築訴え

 ハリス氏は、2日の祝日レーバーデー(労働者の日)に、ペンシルベニアなど製造業が衰退した「ラストベルト(さびた工業地帯)」の激戦州に入り、労働者や中間層の底上げをアピールした。共和党候補のトランプ前大統領もラストベルトで繰り返し遊説。選挙戦は終盤に入り、両氏は大統領選の行方を左右する激戦州での支持獲得に全力を挙げる。  ペンシルベニア州ピッツバーグでの演説でハリス氏は、トランプ氏が大統領に返り咲けば「億万長者や大企業にさらなる減税を行う」と強調。自らは「すべての米国人が家を買ったり、夢をかなえたりする機会を持てるような経済を構築する」と訴えた。  11月5日投開票の本選では、各州に割り当てられた大統領選挙人の過半数270人を得た候補が勝利する。このうち、民主、共和両党が毎回ほぼ確実に勝利する地盤州は固定しており、選挙ごとに結果が変わるペンシルベニアやアリゾナ、ジョージアなど7つの激戦州で選挙人(計93人)をどれだけ積み上げられるかが勝敗の鍵を握る。

◆ハリスVSトランプ、激戦7州での支持率は拮抗

 政治サイト、リアル・クリア・ポリティクスによると、2日時点の7州の支持率平均はハリス氏が47.8%、トランプ氏が47.5%と拮抗(きっこう)。ペンシルベニアでは、ハリス氏がリードしているものの、その差はわずか0.5ポイントにすぎない。

ハリス副大統領(資料写真)

 ハリス氏は2日、中西部ミシガン州デトロイトでの集会に参加した後、ピッツバーグに向かい、バイデン大統領とともに労働組合の関係者らを前に演説。民主党副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事は、中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれた労働組合の集会で演説した。  ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンのラストベルト3州はもともと民主党が強く、党のシンボルカラーから「ブルーウオール(青い壁)」と称されたが、2016年大統領選では、白人労働者層の支持を得たトランプ氏が奪取し、勝利を手にした。  2020年にバイデン氏が奪い返しただけに、ハリス氏も決して落とせない。特にペンシルベニアは選挙人が19人と7州で最も多いことから最重視している。

◆トランプ氏も労働者票を意識

 トランプ氏も先週、ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州を相次いで訪問。今週は副大統領候補のバンス上院議員と手分けしてノースカロライナやアリゾナなどに入る。

トランプ前大統領(資料写真)

 2日は選挙集会を実施せず、自身のソーシャルメディアに労働者へのメッセージを投稿。民主党政権でガソリン価格や食料品が高騰したと主張し、「弱く、失敗したリーダーシップの下では生き続けられない」とハリス氏を批判。その上で自身の大統領在任中は「労働者を守るために大きな成功を収めた」と強調した。 

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