テレビ討論会は日本時間の11日午前10時(現地時間の10日午後9時)から、東部ペンシルベニア州最大の都市フィラデルフィアで行われます。
討論会を翌日に控え、ハリス氏はフィラデルフィアに政府専用機で到着しました。
ハリス氏の陣営は声明を発表し「討論会に向けて過激で正気を失ったトランプ氏は、復しゅうと報復の危険な脅しを強めている」と指摘するとともに、「国民はトランプ氏の独りよがりの復しゅうを拒否し、前向きなビジョンを持つハリス氏を選ぶことになる」と強調しました。
一方、トランプ氏の陣営も声明を発表し、「ハリス氏は党の候補者に指名されて以来、単独でのインタビューや記者会見を行っておらず、厳しい質問に答えるのは討論会が初めてとなる。副大統領として、われわれの経済に与えた損害を説明し、何も新しい計画を実行しなかった理由を答えなければならない」として、バイデン政権の副大統領としての責任などを追及する構えを示しました。
投票日まで2か月を切る中、どちらの候補者も、全米に生中継される討論会を通じて流れを引き寄せたい考えで、対決ムードが高まっています。
討論会 一時調整は難航
ハリス副大統領とトランプ前大統領による初めてのテレビ討論会は、予定された日程での開催が一時、不透明になるなど、調整は難航しました。
9月10日の討論会はもともと、選挙戦から撤退する前のバイデン大統領と、トランプ氏との間で合意していたもので、ハリス氏も党の候補者に指名される見通しとなって以降、予定どおりの日程で出席する考えを示しました。
これに対してトランプ氏側は、ハリス氏が党の候補者に正式に指名されるまで開催を確定できないと表明したほか、討論会を主催するABCテレビは政治的な立場が偏っているなどと主張し、開催が不透明になりました。
トランプ氏は8月8日になって9月10日の討論会に応じる意向を示し、開催に向けて調整が進み始めました。
討論会のルールは?
今回の討論会は、6月にCNNテレビが主催したバイデン氏とトランプ氏による討論会と同様に、観客を入れずに行われることになりましたが、ルールを定める過程で、発言が求められていない側の候補者のマイクの音を切るかどうかで両陣営が対立し、注目されました。
6月の討論会では、前回2020年の選挙戦での討論会で、トランプ氏とバイデン氏が互いに相手の発言を遮るなどして非難の応酬になったことを念頭に、候補者が質問に答えている間、もう一方の候補者のマイクを切る措置がとられました。
ところが今回、ハリス陣営が、マイクは常にオンのままにするべきだと主張したのです。
背景には、6月の討論会で一方の候補者のマイクを切るルールが取り入れられたことで、トランプ氏がバイデン氏の発言を遮ろうとしても音が拾われず、結果的としてトランプ氏を利する形になったとハリス陣営が判断していると見られることがあります。
トランプ氏自身は今回、「マイクを切ってもかまわない」と発言したものの、トランプ氏の陣営は当初の案どおり、一方の候補者のマイクを切るべきだと主張し、結局ハリス陣営が主張を取り下げる形になりました。
ABCテレビによりますと、討論会は1時間半にわたって行われ、2回のテレビCMの休憩を挟みます。
会場となるのは、東部ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるアメリカ憲法の歴史などを学べる施設で、司会2人と候補者だけで討論を進めることになっています。
候補者が1つの質問に答える時間は2分間です。候補者にはペンとメモ用紙、それに水が用意されますが、事前に準備したメモ書きを持ち込むことはできず、テレビCMの際の休憩時に陣営のスタッフと接触することもできません。
討論会はABCテレビのネットワークを通じて、全米に生中継されることになっています。
専門家「ハリス氏 リーダーの資質示せるかがポイント」
今回のテレビ討論会について、アメリカ政治に詳しいジョージタウン大学のハンス・ノール准教授は「ハリス氏が実際はどのような候補なのか、トランプ氏がこれまでと違う新たな候補に対してどう対応するのか、よりリアルな形で明らかになるだろう」と分析しています。
ハリス氏についてはこのところ民主党の全国党大会などで注目され、望ましい流れとなっているとしながらも、「ハリス陣営としてはトランプ氏と戦えることを示さなければならない」と述べ、若さをアピールするとともに、リーダーにふさわしい資質を示せるかどうかがポイントだと指摘しました。
また、ハリス氏の検察官としてのキャリアについて、トランプ氏を責めたてる場面において「検察官のスキルは役に立つだろう」という見方も示しています。
そして討論会に先立ち、ハリス陣営が相手候補の発言中にマイクの音を切らないよう求めたことについては、トランプ氏から失言などを引き出すねらいがあったと分析しています。
そのうえでハリス氏が、女性有権者の関心が高い人工妊娠中絶をめぐって権利擁護を訴える可能性があるとも指摘しています。
一方、トランプ氏側のねらいについて「ハリス氏について、バイデン氏と同様、極端なリベラル候補だと位置づけようとするだろう」と述べ、ハリス氏の大統領としての資質を疑問視する作戦をとると分析しています。
また▼生活費の高騰など、国民が直面しているインフレの問題を取り上げるほか、▼国民の関心事である移民問題についても、ハリス氏が現政権の責任者だとして、副大統領であるハリス氏を含む現政権を批判していくのではないかと指摘しました。
そのうえで、トランプ氏がハリス氏への個人攻撃ではなく、経済問題と移民問題を中心にどこまで政策論争に持ち込めるかも、焦点の1つになるという見方を示しました。
またノール准教授は、ことし6月に行われた討論会で、当時民主党の候補者だったバイデン氏が精彩を欠き、その後撤退に追い込まれたことを踏まえ、「今回の討論会もハリス氏が苦しむことになれば非常に深刻な事態になると思うし、トランプ氏が前回より失敗し、別の姿を見せれば考え直す人がでるかもしれない」と述べた上で、特に支持がきっ抗する激戦州では選挙結果に影響を及ぼす可能性があると分析しています。
過去のテレビ討論会
アメリカ大統領選挙の候補者によるテレビ討論会は1960年に初めて行われて以降、毎回大きな関心を集めてきました。
有権者の関心が高い問題について意見をぶつけ合い、大統領としての資質をアピールする機会となるため、有権者の判断にも影響を与えてきたとされています。
1960年、共和党のニクソン副大統領と、民主党のケネディ上院議員による史上初めてのテレビ討論会では、表情が硬く、疲れた様子のニクソン氏に対し、ケネディ氏は若々しく、はつらつとしていると好意的に受け止められ、選挙戦の流れをつかんで勝利を引き寄せたとされています。
1980年、再選を目指した民主党の現職カーター大統領に共和党・レーガン氏が挑んだ対決では、細かい数字をあげて経済問題を議論するカーター大統領に対し、レーガン氏は「またその話ですか」と切り返しました。
そして、レーガン氏は討論会の最後、有権者に対して「あなた自身に尋ねてください。4年前と比べてあなたの暮らしは良くなりましたか?」と語りかけ、1週間後の選挙で勝利しました。
2000年、民主党のゴア副大統領と共和党のブッシュ・テキサス州知事との討論会では、ブッシュ氏の発言に何度もため息をつくゴア氏の姿が「人を見下している」と批判を浴びました。
また、これまでで最も多くの人が視聴したのが2016年の共和党のトランプ氏と民主党のヒラリー・クリントン氏による1回目の討論会で、およそ8400万人が視聴しました。
今回の大統領選挙では、ことし6月27日にバイデン大統領とトランプ前大統領との1回目の討論会が行われましたが、バイデン氏はことばに詰まる場面があったほか、トランプ氏による批判を切り返せない場面が目立ち、精細を欠きました。
この討論会がきっかけとなって民主党内ではバイデン氏に対して選挙戦からの撤退を求める圧力が高まり、7月、党の指名獲得が確実視されていたバイデン氏が、投票日までおよそ3か月半という段階で撤退を表明するという極めて異例の事態となりました。
大統領選までの主な日程
アメリカ大統領選挙では11月5日の投票日を前に、9月から全米各州で、順次、期日前投票が始まります。
このうち激戦州の1つ、東部ペンシルベニア州では、早ければテレビ討論会の6日後の9月16日から期日前投票の申請の受け付けが始まります。
さらに南部バージニア州、中西部のサウスダコタ州とミネソタ州では、9月20日から期日前投票が始まります。
アメリカの選挙では、期日前投票が投票全体に占める割合が年々高まっていて、ハリス氏、トランプ氏ともに期日前投票が始まることも念頭に、討論会を通じて有権者にアピールしたい考えです。
また、民主・共和両党の副大統領候補のウォルズ・ミネソタ州知事と、バンス上院議員のテレビ討論会は、10月1日に行われる予定です。
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