企業が直面する労働力不足と外国人人材の問題を、宮城県が労働者の誘致に取り組むインドネシアの取材を通して考えます。今回は日本を目指すインドネシアの若者に人気の介護業界です。その背景と課題を探りました。

今月6日、インドネシアの最大都市ジャカルタで開かれた「みやぎジョブフェア」。宮城県が企画したもので、「人手不足の企業」と「日本で働きたい現地の若者」のマッチングが目的です。参加した宮城県内の企業は46社。会場には想定の倍以上1200人の若者が集まりました。

盛信冷凍庫 臼井泰文社長
「熱いよね、日本と違って豊かじゃないから。3年間がんばって家庭に送金とか、自分の幸せのために来ている。そのへんの熱量はすごいと思う」

参加した企業は、製造業や水産加工業、農業、建設業、そして外食産業など多種多様。その中で特に人気を集めていたのが…

インドネシア人の求職者
「介護の仕事が欲しいです」
「日本の大学に留学して介護を学んだので介護に興味があります」

多く聞かれたのが「介護業界」という声。日本ではなかなか人が集まらない業界で意外にも思えます。実際に日本の介護現場で働く外国人は年々増えています。国は介護現場の深刻な人手不足を解消するため、2019年に在留資格の「特定技能」に「介護」を追加。開始当初は数百人でしたが、去年12月の時点では2万8400人となっています。

このうち、約4分の1を占めるのがインドネシア。世界第4位の人口約2億8000万人を抱えますが、そのうち65歳以上は全体のわずか7%ほどと高齢者の少ない人口構造です。
このため、老人ホームなど高齢者施設はほとんどありません。

インドネシア人の求職者
「高齢者を移動する機械の有無など、介護に関する技術がインドネシアは遅れている」
「私の両親がお年寄りになったら、私は自分でお世話をしたい。日本の介護を学びたいです」

若者の中には、将来の高齢化を見据えて、日本で学んだ技術をもとに母国で介護ビジネスの起業を視野に入れる人も少なくありません。外国人介護労働者に詳しい専門家は、東南アジアを中心とした海外の若者が日本の介護業界を目指す背景について次のように分析します。
日本大学商学部 塚田典子教授
「自分の国もあと15年遅れで高齢社会に突入するんです。日本よりもっと早い勢いで高齢化しています。ただ遅れて始まっただけなんですね。そうすると、おそらく皆さん賢い方々なので、いずれは母国に帰って起業するとか、日本で起きていることが母国でも起こるので、そこで自分が活躍したい。そういう先を見ているだろうと思う」

受け入れる企業側も切実な事情を抱えています。ジョブフェアに参加していた内海裕さん。県内で複数のグループホームやデイサービスの事業を展開しています。今後、さらに人手不足が懸念されることから、今回のイベントへの参加を決めたといいます。

社会福祉法人功寿会 内海裕さん
「今パイプあるところは先輩がいるから来やすい。あそこは実績があります、先輩がいますっていうふうに送り出し側がアナウンスしてくれれば、会社にインドネシア人が先輩としていれば、来る方も安心して来やすいんじゃないかなって」

内海さんが運営している松島町のグループホームでは現在24人が生活しています。ここで働くインドネシア人のリブカさん(25)。特定技能の資格で来日し、去年7月から介護職員として働いています。

リブカさん「お待たせしました」

リブカさんは、祖母を介護した経験からより介護を学びたいと考え、来日を決めたそうです。真面目で努力家、入所者からも同僚からも厚い信頼を寄せられています。

グループホーム利用者
「丁寧にやっているんでない。優しくて、顔見ただけで分かるさ」
リブカさんの同僚
「進んで学びたいって気持ちがすごくあって、利用者さんともコミュニケーション取れてi
るし頑張ってくれています。方言も覚えて…上手に方言も使います」

リブカさん
「この間さ、おばあちゃん私の名前覚えたときうれしかった。食事介助のとき、『あんたはリブカさんだよね』って言われて『覚えたの』ってうれしかった」

高齢化が加速する中、宮城県内の介護需要は年々右肩上がりで増加。一方で介護する職員の人数はそれに追い付かず、需要と供給の差は年々拡大する見込みです。
母国の家族に仕送りをしながら、日々奮闘するリブカさん。日報の作成もスマートフォンで漢字を調べ、そつなくこなします。貴重な戦力となっていますが、リブカさんの在留資格である「特定技能」の滞在期間は最長5年です。このため、リブカさんは日本に永住可能な在留資格を得ようと介護福祉士の資格取得を目指して勉強しているといいます。

リブカさん
「これからも仕事と日本語を勉強して頑張ります」

内海さんの会社では現在、リブカさんを含め6人のインドネシア人を雇用していますが、最終的に10人程度まで増やしたいと考えているといい、外国人は単なる労働力ではないと強調します。

社会福祉法人功寿会 内海裕さん
「外国人を安く雇えるからという意味合いで雇っているわけではなくて、日本人と同等に働いた分をしっかりと報酬として与える。これは当然のことだと思いますし、働いてもらっている外国人にとっては当然の権利だと思う。お互いが幸せになれる関係を築いていきたい」

一方で、介護業界全体の低賃金も深刻な問題です。厚生労働省によりますと、日本の全ての職種の月額平均給与に比べ、介護職は7万円も低くなっています。介護保険制度による介護報酬の上限により、賃金が上がりにくいことが一番の要因です。専門家は日本人も外国人も双方が「働きたい」と思える環境を整えていくべきと話します。

日本大学商学部 塚田典子教授
「今、日本人が辞めていっているでしょ。だから足りないから外国人と言っていますけど、日本人が辞めていくような、『これやってられないわ、この仕事好きだけど』というような仕事は、外国人だって『そうだよな』となる。同じことですよね。同じ人なので、やっぱりきちっと処遇を改善することはマスト」

インドネシアの若者に人気となっている介護業界ですが、継続して人材を確保するには、働く環境の整備という最も基本的なことが大切だと言えそうです。

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