防衛省によりますと23日午後、ロシア軍のIL38哨戒機1機が午後1時台から3時台にかけて3回にわたって北海道の礼文島北方の日本の領空内に侵入しました。
領空侵犯した時間はそれぞれ30秒から1分ほどで、3回目の領空侵犯の際に航空自衛隊の戦闘機が警告のためにフレアと呼ばれる熱と光を放つ装置を使用したということです。
自衛隊が領空侵犯への対応でフレアを使用したのは初めてです。
防衛省は、哨戒機が無線などによる警告に従わなかったため、フレアを使用したとしていて、ロシアに対し極めて厳重に抗議するとともに、再発防止を強く求めました。
礼文島近くの宗谷海峡ではロシア海軍と中国海軍の艦艇合わせて9隻が23日にかけて日本海からオホーツク海に向けて航行したのが確認されていて、防衛省が今回の領空侵犯との関連について分析を進めるとともに、警戒と監視を続けています。
防衛省幹部「警告行う上でフレア使用は最も厳しい対応の1つ」
「フレア」は、戦闘機などの航空機から金属の粉末を射出して空中で燃焼させることで、機体の周辺に熱と光を放つ装置です。
これにより、赤外線を探知して航空機などを攻撃するミサイルの追尾を難しくさせることができ、各国が防御装置として使用しています。
一方でフレアは、領空侵犯などの対応で相手に警告を与えるために使用されることもあります。
防衛省によりますと自衛隊では領空侵犯への対応の際、無線による呼びかけや、相手の航空機から見える位置で戦闘機を飛行させることで領空に入らないよう警告し、従わない場合はフレアや信号弾による警告を行うことになっているということです。
防衛省は今回、ロシア軍の哨戒機が無線などによる警告に従わなかったため、フレアを使用したとしています。
防衛省の幹部は「警告を行う上で、フレアの使用は最も厳しい対応の1つだ」と話しています。
領空侵犯への対応をめぐる武器の使用について、日本政府は、人が乗った機体に対しては正当防衛や緊急避難に該当する場合にのみ許されるという見解を示しています。
今回、領空侵犯したロシア軍の哨戒機は人が乗っていたとみられますが、防衛省はフレアや信号弾は武器には該当せず、武器の使用にはあたらないとしています。
岸田首相「警戒・監視に万全期する」
岸田総理大臣は、日本時間の24日未明、訪問先のニューヨークで記者団に対し「この事態を受けて、国際法と国内法令に従い、冷静かつきぜんと対応すること、アメリカをはじめとする関係諸国と緊密に連携すること、そして、国民や国際社会に対し、適時適切な情報発信を行うことの3点を指示した」と述べました。
その上で「ロシア軍機による領空侵犯は、極めて遺憾であり、ロシア政府に対し、外交ルートを通じて極めて厳重に抗議するとともに再発防止を強く求めた。わが国の領土、領海、領空は断固として守り抜くという決意のもと、引き続き、警戒・監視に万全を期したい」と述べました。
ロシア軍哨戒機 午後1時から午後3時 3回領空侵犯
防衛省によりますとロシア軍の哨戒機は日本海の上空を大陸方面から北東に向け飛行してきたあと、進路を南に変えて午後1時3分ごろ、北海道の礼文島北方の日本の領空内に侵入しました。
哨戒機はおよそ1分後に領空を出て南北にじぐざくに飛行を繰り返したあと、礼文島北方の領空周辺で東西に複数回、旋回したということです。
その旋回の途中で、午後3時31分ごろからおよそ30秒間、2回目の領空侵犯をし、さらに、午後3時42分ごろからおよそ1分間、3回目の領空侵犯をしました。
その後も周辺で旋回を続け、午後5時50分ごろ、大陸方面に戻っていったということです。
領空は領土と、海岸線からおよそ22キロの領海の上空にある空域で、外国の航空機が許可なく領空内を飛行することは国際法上認められていません。
専門家「中国とロシアの軍事的活動の一環 可能性は高い」
ロシア軍の哨戒機が日本の領空を侵犯したことについて、航空自衛隊の元空将は、ロシアと中国の軍事的な活動の一環だった可能性があると指摘しています。
航空自衛隊で戦闘機のパイロットを務めた元空将の荒木淳一さんは、ロシア軍の哨戒機が3回にわたって日本に領空侵犯したことについて「過去には領空の範囲をめぐる微妙な認識の違いで日本は領空侵犯と認識し、相手は領空侵犯ではないと認識してそごがあったという事例もある。今回は複数回通告や警告を受けているのに領空侵犯しているということは誤認識という部分を超えているとは思う」と指摘しています。
航空自衛隊の戦闘機がフレアを使用したことについては「フレアは非常に強い光を発するので、昼間でも明確に、遠方からも確認ができる。繰り返し警告をしているにもかかわらず3回目の領空侵犯があり、日本として領空侵犯に対する強い姿勢を示す意味でフレアを使ったのではないか」と話しています。
また、中国とロシアの艦艇が23日にかけて宗谷海峡を通過したことに関連して「哨戒機は水上の船や潜水艦などを捜索して監視する任務を持っている。今回の飛行が、中国とロシアの軍事的な活動の一環であった可能性は高いと思う。両国は艦艇や航空機の連携した動きが増えるなど戦略的な連携が強まっていて、そのことを念頭に活動をいっそう注視していく必要がある」と指摘しています。
日本とロシアの関係 東西冷戦以降最低の水準
ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本はG7=主要7か国と足並みをそろえて、ロシアに対する制裁を強化しています。
ロシアはこれに反発し、2国間関係は東西冷戦の終結後、最低の水準に落ち込んでいます。また、ロシア側は日本がアメリカと安全保障分野で協力を強化していることにも非難を強めています。
一方、ロシアと中国は合同で軍事演習を行うなど関係を強化させています。
今月10日からはロシア軍が太平洋などで行った大規模な演習に中国の艦船が参加したほか、21日からは中国軍とロシア軍が日本海で合同で軍事演習を行っています。
また、中国国防省は両国の海軍が太平洋で合同パトロールを行うと今月、発表していて、ロシアは中国との連携を強化し、アメリカや日本などをけん制するねらいがあるとみられています。
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