ウクライナではロシアによる侵略後、戦争をテーマにした演劇の上演が相次いでいる(7月)

ウクライナで戦争をテーマにした演劇の上演が相次いでいる。ロシアによるウクライナ侵略から2年半余りが経過し戦争が暮らしに大きな影響を与える中、演劇は人々の心に力を与えている。

ロシアのミサイルによって小児病院で多くの人々が犠牲になった7月上旬、首都キーウ(キエフ)にある国立劇場で「ファシズム」をテーマにした演劇が上演された。観客の大半は女性で老婦人から学生まで様々だ。

演出家のユーリ・ディアク氏は観客への挨拶の中で、この公演は前線で命をささげ、二度と劇場に来ることができないすべての人々にささげるものだと述べた。観客の嗚咽(おえつ)は拍手よりも大きく響いた。

キーウでは地方からの避難民が流入しており、劇場が満席の日が続くことも多い。

演劇評論家のビタリー・ジェジェラ氏は「ロシアのウクライナ侵略は、ウクライナの演劇の発展に新たな、そして非常に強い力を与えた」と指摘する。

演劇界は侵略開始当初、多くの人々が亡くなり数百万人もの人々が避難民となっている時に上演を続けるのかとのジレンマに駆られたという。

ロシアによる侵略前、ウクライナの演出家たちは「すべての公演は人生最後の公演であるかのように演じなければならない」と指導していたが、今ではこの言葉を口に出して言う必要さえなくなった。公演の質は上がり、観客はそれに応えるように劇場に足を運んでいる。

戦争は観客の嗜好にも影響を与え、悲劇より喜劇が人気を集めるようになった。批評家たちは「戦争による生活の苦しさから自分を守りたいという大衆の願望によるもの」だと説明している。「戦争が始まって以来、私は劇場に強く引かれるようになった」(観客のダンチェンコ氏)

ジェジェラ氏によると、戦争によるウクライナの兵役動員は劇場運営にも影響を与えている。キーウのある劇場では俳優2人が動員された。不在の俳優の補充のため、劇場は数カ月間中断し、新たな出演者を探す必要があったという。

戦争が長期化する中、戦いの恐怖を体験した俳優や演出家が観客の前に現れ、自分たちの思いを語るスタイルの公演が増えた。南部ヘルソン州の音楽劇場はロシア軍の占領下の中で劇団のメンバーの一部がウクライナ軍が支配する地域に移動し、こうした劇を制作、上演した。

退役軍人が出演し戦争について語る動きも起きている。開戦直後からウクライナ軍に志願した劇作家のマキシム・クロチキン氏は、退役者を支援するための劇場を創設した。重傷を負って帰還した人たちを支える狙いで「戦争に参加した人々に語る機会を与えたい」とクロチキン氏は話す。

この記事はキーウ在住のフリージャーナリスト、ワジム・ペトラシュク氏の取材を基に編集しました。

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