アメリカ大統領選挙に向けた副大統領候補の民主党のウォルズ・ミネソタ州知事と、共和党のバンス上院議員による、テレビ討論会は、ニューヨークにあるCBSテレビを会場に1日午後9時、日本時間の2日午前10時から始まりました。

討論会は90分間の予定で、9月の大統領候補の討論会とは異なり、候補者の発言中、もう一方の候補者のマイクもオンにしたままにするため、発言がそのまま視聴者に伝わることになります。

今回の選挙戦ではハリス氏とトランプ氏による討論会が9月10日の1度だけの開催となる見通しで、副大統領候補による討論会が両陣営が直接、対決する最後の機会になると見られています。

ウォルズ、バンス両氏はいずれも論客として知られ、討論会では、失言を避けつつ、みずからの陣営の強みをどこまでアピールできるかが焦点となります。

世論調査によりますと、ハリス氏とトランプ氏の支持率はきっ抗していて、副大統領候補による討論会が、残り30日あまりの選挙戦の流れに影響を与えるのか注目されます。

民主党・ウォルズ氏 「コーチ・ティム」の愛称も

民主党の副大統領候補のティム・ウォルズ氏は60歳。

中西部ネブラスカ州の出身で、2019年からミネソタ州知事に就任しています。

ウォルズ氏は州兵を24年間務めたほか、高校で社会科の教師になり、教師どうしとして出会った妻の故郷、ミネソタ州に引っ越し、高校のアメリカンフットボールのコーチも務めました。

州知事になった今も親しみやすさを打ち出すため「コーチ・ティム」の愛称も積極的に使っています。

また、自身のSNSには銃を持って狩りをしている様子をとらえた写真や「私はハンターで、銃の所持者だ」というコメントを投稿する一方、銃規制の強化には賛成の立場を示しています。

大統領候補のハリス氏が女性、黒人、そしてアジア系であり、大都市の検察官としてキャリアを築くなか、ウォルズ氏は白人労働者層への支持拡大をねらっているみられています。

共和党・バンス氏 回顧録がベストセラーに

一方の共和党の副大統領候補のJ・D・バンス氏は40歳。

中西部オハイオ州ミドルタウンで生まれました。

貧しい暮らしや両親の離婚などを乗り越えてきた自身の経験から「家族の大切さ」を重視するようになり、カトリックに改宗し、保守的な価値観が重要だと考えるようになったといいます。

高校卒業後、海兵隊に入隊し、イラクに派遣されるなどしたあとイェール大学のロースクールを卒業しました。

その後、起業するまでの自らの経験をもとに製造業が衰退した地域に暮らす、白人労働者層の日常を描いた回顧録「ヒルビリー・エレジー」が2016年に出版されてベストセラーになり、映画化もされました。

2022年の中間選挙でトランプ氏の全面支援を受けてオハイオ州選出の上院議員に初当選し、政治家としての経験は2年弱ですが、今回トランプ氏から副大統領候補に指名されました。

アメリカの労働者を守るためとしてトランプ氏が掲げる「アメリカ第一主義」を強く推し進めていく存在として、特に白人労働者層からの支持をいっそう強固にする役割が期待されているとみられます。

ウォルズ氏とバンス氏 2人の好感度は?

政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によりますと、全米を対象にした各種世論調査の平均では、9月24日時点で、民主党の副大統領候補、ウォルズ・ミネソタ州知事について「好ましい」と答えた人は40.7%「好ましくない」と答えた人は38.4%。

一方、共和党の副大統領候補、バンス上院議員について「好ましい」と答えた人は35.8%「好ましくない」と答えた人は45.8%となっていて、好感度ではウォルズ氏が上回っています。

バンス氏の好感度が低くとどまっている背景の一つには、自身の選挙区のオハイオ州のスプリングフィールドで「移民がペットの猫や犬を食べている」という情報をSNSに投稿して、共和党内からも「事実と異なる」と非難されたことなどが影響しているとも指摘されています。

また、バンス氏が2021年にテレビのインタビューで民主党のハリス副大統領などについて「この国は自分の人生と選択のために惨めな思いをしている子どものいない『猫好きの女性』によって運営されている。そして彼女たちはこの国も惨めなものにしたいのだ」と発言していたことに対して、批判の声が上がるなど物議を醸す発言や投稿などが続いています。

一方、ウォルズ氏は州兵を24年間務めていましたが「私が戦争で携帯したような銃は戦場でのみ存在すべきだ」と過去に発言していたことが「ウォルズ氏は戦闘地域への派遣経験がない」などと批判され、ウォルズ氏も「不正確な発言だった」と認めています。

討論会のルールは?

今回の副大統領候補の討論会について、主催するCBSテレビがルールを公表しました。

それによりますと、9月にABCテレビが主催した大統領候補の討論会と同様に観客を入れずに90分間の予定で行われます。

民主党のウォルズ・ミネソタ州知事が画面向かって右側に共和党のバンス上院議員が左側に立ちます。

2人の司会者が候補者に質問する形で進められ、質問された候補者が2分間で答え、もう一方の候補者が2分間で反論しさらにそれぞれに1分間、追加で反論する時間が認められます。

候補者2人には手元の時計やライトで残り時間がわかるようになっています。

事前に用意したメモなどの持ち込みは許されず、テレビCMの際の休憩時に陣営のスタッフと接触することもできません。

最後にそれぞれ2分間自由な発言機会があり、抽選の結果、バンス氏が一番最後に発言をするということです。

一方、先月行われた大統領候補の討論会では、発言が求められていない側の候補者のマイクの音を切るかどうかでハリス陣営とトランプ陣営が対立し、最終的に、候補者が質問に答えている間、もう一方の候補者のマイクを切る措置がとられました。

今回の副大統領候補の討論会では、候補者が使うマイクの音を切る判断をする権利は主催するCBSテレビにあるとした上で、基本的には相手の候補者が答えている間ももう一方の候補者のマイクはオンにしたままにするということです。

バンス氏 有権者から支持・懸念の声も

選挙の結果を左右するといわれる激戦州の一つ、南部ノースカロライナ州で9月に開かれたバンス氏の集会には大勢の人たちが詰めかけました。

バンス氏の演説を聴いた人たちからは「家族を核とする価値観について話してくれてよかった。副大統領候補の討論会でもうまくやると思う」とか「バンス氏の話を聞いて投票しようと思う気持ちが強まった」といった声が聞かれました。

一方、バンス氏の過去の発言やSNSへの投稿については有権者から懸念の声も聞かれました。

同じノースカロライナ州の不動産管理会社で働く女性は「女性や移民などをたたくために時間が割かれているように思う。もっと希望につながる議論をしてほしい。人々の怒りを増幅させることで、他人を不当に扱うよう仕向けている」と話していました。

“副大統領研究の権威” 専門家は

アメリカの副大統領について長年研究を続けてきた、セントルイス大学法学部のジョエル・ゴールドスタイン名誉教授は民主党の副大統領候補のウォルズ知事について、ハリス氏とはまったく異なる経歴と経験を持つ人物だと指摘しました。

そのうえで「アメリカの有権者のより幅広い層にアピールするために選ばれた。無党派層や、民主党を支持するとは限らない人たちからの支持を広げられるかもしれない」と分析しています。

一方、共和党の副大統領候補のバンス上院議員については、少なくともこの90年の両党の副大統領候補の中で最も政治家としての経験が短いとした上で「トランプ氏の考えを明確にし、対決的な政治手法を踏襲し、トランプ氏の支持層、特に若い白人男性や、労働者階級出身者にもアピールすることに最も意欲的な人物だ」と指摘しました。

そのうえで「バンス氏の議論を呼ぶ多数の発言は共和党支持者を結集させる一方で民主党支持者や無党派層を排除するものとも受け止められる」と分析しています。

また、ゴールドスタイン氏は選挙戦での一連の討論会の締めくくりが副大統領候補によるものになったことは過去に例がないとした上で「選挙戦が接戦となっていることもあり、今回の副大統領候補の討論会が決定的な結果につながる可能性もある」という見方を示しています。

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