急速な少子化と地方の過疎化に悩む韓国が、外国人労働者の受け入れを拡大している。政府が指定する「人口減少地域」に5年以上住んで働くことを条件に、家族の呼び寄せも可能な「地域特化型ビザ」を発給する試みが本格化。地方に外国人住民を呼び込む事実上の移民政策で、地域社会に定着できるかが課題になりそうだ。(忠清北道=チュンチョンプクト、丹陽=タニャン=で、木下大資、写真も)

9月、忠清北道丹陽で、地域特化型ビザを取得してカフェで働くウズベキスタン人のベクゾードさん(左)。右は厳定鎬さん

◆ウズベク人男性は母国の6倍の月給を実現

 ソウルへ流れる漢江(ハンガン)上流にある韓国中部の観光地・丹陽。厳定鎬(オム・ジョンホ)さん(52)が昨年開いたカフェで、ウズベキスタン人のベクゾードさん(27)が流ちょうな韓国語で接客していた。  4年前に留学生として来韓。ソウルの大学で学んだ後、昨年6月から地域特化型ビザ制度を利用して丹陽で働く。月給300万ウォン(約32万円)は母国の6倍ほど。「資金をためて韓国で自動車輸出の事業を始めたい。そのために永住権も取得したい」と思い描く。  今年に入って母国から妻を呼び寄せ、近く子どもが生まれる予定。イスラム教徒であるため戒律に沿ったハラル食材をソウルから取り寄せるといった不便はあるが、自然豊かな丹陽の暮らしが気に入っている。  同僚でネパール人のロイトさん(39)も地域特化型ビザのおかげで最近、母国に残していた妻を呼び寄せた。6年前に韓国へ来た時は「金を稼いで帰国するつもりだった」が、今はここで子どもを育てることも考え始めたという。

◆5年以上働くと永住権申請の道も

 地域特化型ビザは、韓国語能力や一定の学力などの要件を満たす人に発給。5年以上働けば永住権申請の道が開けるのも魅力だ。一昨年から試験的に導入され、今年は全国89の人口減少地域のうち、国の公募に応じた66自治体に約3300人分の枠が割り当てられた。  2人を雇う厳さんは「商売を始める上で一番のネックは求人だった」と振り返る。韓国人は観光地特有の週末勤務を嫌う。「丁寧な接客は教育すれば身に付く。国籍は関係ない」と、今回の制度を歓迎している。  韓国の地方では若い世代が有名大学や企業の集中する首都圏に流出し、人手不足が深刻だ。丹陽郡の李美善(イ・ミソン)・未来戦略課人口政策チーム長は「韓国人であれ外国人であれ、とにかく人がいてこそ地域の活力が生まれる」と語る。

◆外国人同士の夫婦や子どもの受け入れは初

 外国人が地方で就職しても、規定の5年が過ぎれば去ってしまう心配はないのだろうか。  求職者と事業所のマッチングを担う趙蓮華(チョ・ヨンファ)・丹陽女性就業支援センター長は「地域で家族と幸せに暮らせたら、あえて都市へ行くだろうか。5年の間にちゃんと支援して、地域住民として定着させることが大切だ」と考えている。  ただ、地域特化型ビザは国のトップダウンで導入され、実際に対応する地方自治体の態勢は整っていない。以前も韓国人男性の配偶者として来た「結婚移民」のアジア系女性は多かったが、外国人同士の夫婦や子どもを受け入れるのは、初めての経験になる。趙センター長は「彼らを定着させる仕組みを早急につくっていく必要がある」と話す。

◆「内需拡大、地域の学校維持にもつながる」

 林東鎮(イム・ドンジン)・韓国移民政策学会長の話

林東鎮・韓国移民政策学会長

 地域特化型ビザはオーストラリアとカナダの事例を参考に設計された。地域の人口を増やしながら必要な人材を確保できる手法で、今後拡大するだろう。  多くの外国人は、家族を同伴できるなら韓国に定着したいと考える。男性だけだと稼いだ金の大部分を本国に送ってしまうが、家族が一緒ならば韓国での生活に使うので、内需にも貢献する。子どもが学校に通うことで、地域の学校を維持することにもつながる。

 韓国の外国人受け入れ かつては日本の外国人技能実習生をモデルにした「産業研修生」制度があったが、2004年に政府主導で外国人労働力を受け入れる「雇用許可制」を導入した。
 近年は、韓国の生活に適応した人材には家族同伴で長期滞在可能な「熟練技能人材ビザ」も発給し、取得枠を拡大している。昨年末時点の在留外国人は250万人余で、人口全体の5%に迫る。
 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は「出入国・移民管理庁」を新設する方針で、韓東勲(ハン・ドンフン)法相(当時)は昨年12月、「移民政策の可否を悩む時期は過ぎている。やらなければ国家消滅の運命は避けられない」と強調した。



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