米国で住宅価格の記録的な高騰が続き、「アメリカンドリーム」の象徴とされるマイホームが、庶民にとって高根の花になっている。11月の米大統領選で勝敗の鍵を握る労働者層の不満が高まっており、両陣営が主要争点として競い合うように支援策を打ち出している。(デトロイトで、鈴木龍司、写真も)

9月、米デトロイト近郊の閑静な住宅街で売りに出されている中古住宅(左側)。不動産サイトで100万ドル(約1億4800万円)近くの値段が付いていた

◆中古住宅の価格、2018年の1.6倍に

 全米でも住宅価格の上昇率が高い中西部ミシガン州デトロイト。近郊のショッピングモールに4人の子どもと買い物に来ていたバス運転手のティファニー・ウィルソンさん(37)は「マイホームがほしくて探しているが、わが家の収入では厳しいわ」と漏らした。母子家庭で、賃貸アパートに住んでいる。子どもの成長とともに部屋は手狭になったが、「値上げが続くアパートの家賃は月1000ドル(約14万8000円)。生活費を支払うだけで精いっぱい」と嘆いた。  米国では中古住宅を購入し、リフォームして暮らす家庭が一般的だ。ただ、全米不動産業者協会によると、中古住宅価格の中央値は8月時点で41万6700ドル(約6167万円)に達し、2018年8月時点の26万5600ドル(約3930万円)から約1.6倍に上昇。デトロイトには10万ドル(約1480万円)前後の物件もあるが、傷みの激しい老朽化した物件などに限られる。

◆新築は富裕層のみ、低・中間所得層は融資などに悩み

9月、米デトロイトの「ナショナル・フェイス・ホームバイヤーズ」の事務所で、マイホームの購入に関する住民の相談に応じるスタッフ(右)

 背景には慢性的な供給不足がある。08年のリーマン・ショックで不動産バブルが崩壊し、投資目的を含めた住宅建設が激減。景気が回復した現在は40代前半以下の「ミレニアル世代」や「Z世代」の若者の住宅需要が旺盛だが、中古物件の供給力は低いままだ。一方で地価と住宅ローン金利、建設資材の価格や人件費は相次ぎ上昇し、新築住宅を購入できるのは一部の富裕層に限られている。  デトロイトを拠点に住宅購入の手続きや融資先の確保を支援している団体「ナショナル・フェイス・ホームバイヤーズ」代表のディナ・ハリスさんは、「相談者の大半は子育て中の低・中間所得層。学生ローンの返済とインフレも壁になっている」と指摘する。

◆「ハリス・トランプ両候補とも大衆受けを狙った政策」

9月、米デトロイトで、老不動産サイトで75万ドル(約1億1100万円)の価格がついていた中古住宅。老朽化が進んでいた

 米社会の格差を象徴する住宅問題は、大統領選の勝敗を左右する労働者層の関心が高い。この分野を「一丁目一番地」に据える民主党のハリス副大統領(59)は、デトロイトが独自に導入した補助金をモデルに、初めて住宅を購入する人に2万5000ドル(約370万円)の頭金支援を打ち出す。任期の4年間で300万戸の安価な住宅の建設も約束している。  一方、共和党のトランプ前大統領(78)はライバルの頭金支援は住宅需要を増大させ、さらなる価格の上昇を招くとして「大間違いだ」と批判。国有地の開放による住宅用地の確保や住宅ローン金利の引き下げ、税制優遇をうたう。  ミシガン大のブライアン・コノリー助教授は「全体的に賃金水準が低い中西部などの地域でも価格が高騰し、特に黒人や中南米系の世帯が住宅市場から締め出されている」と説明。大統領選に向けて「多くの有権者にとって最大の関心事で、両候補とも大衆受けを狙った政策を掲げている」と指摘し、「ハリス氏の方がより具体的だが、どちらに有利に働くかはまだ不透明だ」と分析した。 

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