【ソウル=木下大資】北朝鮮メディアは17日、朝鮮人民軍が15日に韓国との間をつなぐ道路と鉄道を爆破したと報じた。「韓国を敵対国家と規定した憲法の要求」に沿った措置だと説明し、南北関係に関する改憲がすでに行われたことを示唆した。

◆「国境」に関連した条項新設の可能性

 北朝鮮は7、8両日に国会に相当する最高人民会議を開き、憲法の修正案が採択されたと発表したが、韓国を敵国と明記するなどの内容が含まれるかは公表していなかった。

北朝鮮の国旗

 今回の言及が事実なら、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記が1月に下した指示に従い、南北統一に関連した表現を削除し、領土や国境に関する条項を新設した可能性もある。南北の分断と対立が固定化しそうだ。  韓国軍は15日、北朝鮮が同日正午ごろに朝鮮半島東部の南北をつなぐ道路である東海(トンへ)線と、西部の京義(キョンウィ)線を爆破したと発表した。

◆道路爆破…「国境を永久に要塞化する」

 17日の朝鮮中央通信は、韓国側の政治・軍事的挑発への自衛策として、東西2カ所の道路と鉄道を各60メートルにわたり爆破したと報道。国防省報道官が「閉鎖された国境を永久的に要塞(ようさい)化する措置を続ける」と表明したと伝えた。一般住民が読む党機関紙「労働新聞」の1面にも記事と爆破時の写真が掲載された。  韓国統一省は17日、北朝鮮が改憲を示唆したことに「韓国民と北朝鮮住民の(統一に対する)念願を裏切る行為で、強く糾弾する」とコメントした。  ◇

◆改憲内容の公開には慎重姿勢

 北朝鮮が、韓国を「敵国」と位置付ける憲法改正を実施したことを示唆した。ただ領土を巡る規定の扱いなど、改憲の全体像は明らかにしていない。韓国の専門家からは、内外に及ぼす影響の大きさを考慮し、具体的な改憲内容の公開には慎重姿勢を取っているとの見方が出ている。

南北軍事境界線に位置する板門店で立つ韓国軍兵士と北朝鮮兵士(奥3人)=資料写真

 朝鮮中央通信は15日の陸路爆破について、自国の「主権行使領域」と韓国の領土を分離させる一環だと説明。自国の領土という表現は避けており、改憲によって領土条項の新設があったのかは不明確だ。  北朝鮮と韓国は、朝鮮戦争の休戦協定によって引かれた軍事境界線を挟んで対峙(たいじ)する。韓国の憲法は、北半分を含む朝鮮半島全体を領土と規定している。金正恩朝鮮労働党総書記は1月、北朝鮮の憲法にはそうした規定がなく「独立した社会主義国家として、主権行使領域を正確に規定する必要がある」と述べていた。

◆「イデオロギーの混乱」はらむ

 ただ、朝鮮半島西側の黄海では南北が主張する境界線が一致しておらず、北朝鮮が明確な線引きを打ち出せば、武力衝突につながりかねない危険をはらむ。北韓大学院大の梁茂進(ヤンムジン)教授は「韓国を意識せず別々の国としてやっていきたいという正恩氏の構想に、黄海の境界紛争化は負担になる」と分析する。  統一研究院の洪珉(ホンミン)先任研究委員は、北朝鮮が領土条項を新設して国境を設定すれば、休戦協定締結の当事者である中国の立場などを巡って問題が浮上すると指摘。「領土条項の新設ではなく、憲法前文に包括的な表現で反映させた可能性もある」とみる。  同院の趙漢凡(チョハンボム)研究委員は「統一や同民族の概念を憲法から削除すれば、故金日成(キムイルソン)主席の業績や主体思想を否定することになる。改憲を実施したとしても、内部的なイデオロギーの混乱のために内容を公開できないのだろう」と推測した。(ソウル・木下大資) 

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