インフルエンサーに専用スペース
ことし8月に中西部イリノイ州シカゴで開かれた民主党の全国党大会。
会場の広大なアリーナで、ステージがよく見える”特等席”を使えるのは、200人を超えるインフルエンサーたち。
彼らは「コンテンツ・クリエーター」と呼ばれ、専用スペースに自由に出入りして撮影や投稿を行うことが許されました。
インフルエンサーを招待したのは初めてで、民主党は「メディアの環境が進化し続ける中、クリエーターたちに歴史の最前列の席を提供することで国民が求めることを満たしていく」としています。
インフルエンサー どんな人たち?
招待されたインフルエンサーはさまざまです。
日頃から政治に関連するメッセージを発信する人もいれば、美容やファッションなど、政治とは関わりのない情報を発信する人も。
招待された1人、ジェシカ・ウーさんは「カワイイ」弁当の作り方や「かっこいい」ファッション、「楽しい」子育てについて情報を発信しています。
フォロワーの数はTikTokがおよそ560万人、ほかのSNSを合わせると700万人に上ります。
ウーさんは、ハリス氏、ウォルズ氏と一緒に写った写真を投稿。
その後もハリス氏の名前が書かれた帽子をかぶってみんなで踊る姿などを投稿しています。
ウーさん
「誰もがSNSを利用していますし、特に私のフォロワーはZ世代です。民主党にとってはインフルエンサーと話し、動画を作成してもらって、ニュースを広めることが非常に重要なのだと思います」
一方で、ウーさんの場合、党大会では民主党側から航空券やホテルが提供されましたが、投稿内容に関して求められることはなかったということです。
サタデーウオッチ9 今夜9時半から
党大会の様子をTikTokで配信。
フォロワーからは「党大会にいるあなたは最高!」(I love that youre there)、「次の大統領はカマラ・ハリスだ!」(Kamala our next president)などの反応が寄せられました。
“優遇”されるインフルエンサー
党大会では、有力な政治家や著名人たちと並んで5人のインフルエンサーもスピーチを行いました。
最初にスピーチを行ったのはTikTokをはじめとしたSNSでおよそ20万人のフォロワーを持つデジャ・フォックスさんです。
フォックスさんは、ファッションの投稿と合わせて人工妊娠中絶の権利の擁護など民主党の政策に近いメッセージを発信しています。
インフルエンサーたちにはさまざまなが便宜が図られ、アルコールも含めて自由に飲食できる専用のラウンジが設けられたほか、パーティーなどの交流イベントも企画されました。
さらに、党の有力者たちとのインタビューのアレンジまで。
バイデン大統領が選挙戦からの撤退を表明し、後継の候補となったばかりのハリス氏が大手メディアのインタビューに応じていない時期に、3人のインフルエンサーにインタビューの機会が与えられたということです。
民主党はインフルエンサーに対して過去に例がない対応をとった効果について、インフルエンサーたちが党大会の様子をSNSで発信した結果、のべ5億人のフォロワーにリーチすることができたと総括しています。
TikTokで政治を知る若者たち
インフルエンサーたちが、力を入れているのが短い動画を投稿するTikTok。音楽やダンスなど、エンターテインメントでの利用が中心ですが、アメリカの若者の間では利用目的が広がってきています。
アメリカの調査機関、ピュー・リサーチセンターによりますと、日常的にニュースを知るためにTikTokを使っていると答えた人の割合は17%でした。このうち、18歳から29歳が特に高くなっていて39%と、年々、増えています。
さらにアメリカのTikTokの利用者を対象した調査では、18歳から29歳の利用者の48%と半数近くが、政治についての情報を得るためにも使っていると回答しました。
TikTokには、ニュースや政治的なメッセージも投稿され、若者の間で重要な情報源となっています。
トランプ氏もTikTokで
一方で、トランプ前大統領もTikTokを始めとしたSNSでの発信に力を入れています。
TikTokのフォロワーは1200万以上で、1000万回以上みられている動画も多くあります。
なかでも、現地時間の今月20日にマクドナルドでトランプ前大統領が働いている様子を撮影した動画は、これまでに4100万回以上みられています。
同じ動画はXでも投稿され2800万回以上みられるなど、みずからのアカウントでの投稿が拡散することも多くなっています。
多様化する選挙戦略
アメリカで政治資金を分析している非営利団体「オープンシークレッツ」によりますと、アメリカ大統領選挙と同時に実施される連邦議会議員選挙で使われる選挙費用の合計は少なくとも159億ドル、日本円でおよそ2兆4000億円に上るという試算を公表しました。過去最高になる見通しだということです。
ハリス氏、トランプ氏の両陣営ともに資金の多くをメディア戦略に投じていて、ハリス氏側の支出先にはSNSのインフルエンサーを活用した宣伝を手がける企業も含まれ、手法も多様化しています。
「テレビよりも効果的」
今回、民主党はSNSを活用したキャンペーンを展開するにあたって、SNSの情報分析に詳しい専門家に注目しました。
その1人が、20年以上、シリコンバレーなどでエンジニアとして働いた経験があるディーパック・プリさんです。
プリさんはSNSなどの投稿を見てもらうためには、何かが起きたとき、
▽素早く情報を届けること、
▽政策と結び付けて自分ごととして捉えられるようにすること、
▽動画や音声など、届けたい人たちに合った適切な媒体で短くまとめることが
効果的だと指摘します。
その中で若い世代に届けるには、TikTokでの発信がますます重要になっているといいます。プリさんは民主党大会にも招待され、情報発信の方法について講演も行いました。
ディーパック・プリさん
「人々は忙しく、長い文書を読む時間はありません。コンテンツを適切な形式に変換し、短くする必要があります」。
「ここ4年間でTikTokは多くのフォロワーを獲得し、一部のSNS(のフォロワー)は減りました。有名人やスポーツ選手、その他の人たちをSNSの影響力として利用することで、より幅広い視聴者に(主張を)届けることができると思う。従来のテレビ広告よりも効果的な方法だと思う」
インフルエンサーが左右するTikTok
インフルエンサーの影響力は、TikTokでは特に強いという調査結果があります。
イギリスのロイター・ジャーナリズム研究所は、世界各地のTikTokの利用者がニュースを知るために誰に注目しているのか調査しました。
その結果、インフルエンサーが57%と最も多くなっていて、主要なメディアやジャーナリストは34%。20ポイント以上高いという結果になりました。
Xでは、主要なメディアやジャーナリストが53%と最も多く、インフルエンサーは45%となっています。
TikTokは、ほかのSNSと比べてもインフルエンサーの影響力が特に高いことがうかがえます。
“TikTok 客観的で公平か分からない”
ロイター・ジャーナリズム研究所でソーシャルメディアの影響を研究しているニック・ニューマン氏は、TikTokは動画の投稿を通して個人の意見や感情を直接、発信できることなどから、若者が関わる割合が高いのが特徴で、各国の若い世代に急速に浸透しているとしています。
「政治家にとってTikTokは若者にアプローチするに有効なツールになっている。また、若者から信頼を得ているインフルエンサーを通じて、ふだんは政治に無関心な若者に働きかけたり、選挙で投票することの重要性を示したりすることができる」
その一方で、インフルエンサーが政治的な発信を行う際の影響については慎重に見極めていく必要があるとしています。
「一部のソーシャルメディアは人々を団結させるのではなく、分断を促しているという批判もある」
「インフルエンサーは自分の意見を主張したり感情に訴える発信をする。彼らが発信する内容が事実にもとづいたものなのか客観的で公平な見解にもとづいたものなのか分からず懸念がある」
(アメリカ総局 森健一、国際部 高須絵梨、機動展開プロジェクト 井上直樹)
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