【ワシントン=赤木俊介】米大統領選をおよそ1週間後に控え、米有権者の間で選挙後の政治的暴力への懸念が広がっている。AP通信とシカゴ大世論調査センターが実施した世論調査では米有権者の76%が選挙結果を覆す暴力的な試みを「懸念している」と回答した。そのうち「かなり・非常に懸念している」との回答も42%に上った。
有権者登録をした18歳以上の米市民約1000人を対象に、10月11〜14日の期間に調査を実施した。対象者の内訳をみると、民主党支持が46%、共和党支持が37%、無党派が18%だった。
懸念は「かなり・非常に懸念している」を最高に3段階で評価した。民主党支持で政治的暴力への懸念が強く、55%が「かなり・非常に懸念している」と答えた。懸念を表明した回答は91%を占めた。共和党支持者ではそれぞれ27%、60%だった。
共和党支持者、選挙制度に対する不信強く
選挙制度に対する不信は主に共和党支持者の間で根強い。2020年の大統領選でバイデン米大統領が「不正に当選した」と考える共和党支持者は過半数の56%だった。全体では28%にとどまった。
20年の選挙ではトランプ前大統領が「選挙不正」を訴え、結果を否定した。翌年1月には選挙結果を否定する市民らが連邦議会の議事堂を占拠する事件に発展した。24年選挙で敗北すれば、トランプ氏が再び結果を否定すると考える米有権者は66%に上った。
米当局は選挙に関連する陰謀論が政治的な暴力行為につながると警戒している。米非営利団体「プロパティ―・オブ・ザ・ピープル(人民の財産)」が連邦情報自由法(FOIA)に基づき入手し、28日に公開した内部文書で米当局は選挙に関連した国内テロのリスクが少なくとも25年1月の大統領就任式まで続くとみている。
米国土安全保障省(DHS)と連邦捜査局(FBI)によると、24年の選挙期間では、選挙関連当局者のもとに白い粉が入った不審な郵便物が届く事件や個人情報をネット上にさらす嫌がらせ、州議会への爆破予告といった行為が確認されている。
トランプ氏暗殺未遂事件で陰謀論・誤情報が拡散
西部コロラド州の公安当局が大統領選に関連した脅威をまとめた10月10日付の報告書は「トランプ前大統領を狙った2件の暗殺未遂事件は米政界に関する陰謀論や誤情報の拡散につながる」と記した。移民や経済など選挙の争点となる社会問題が「デモ、暴力、そして物的損害への参加または開始を促すきっかけとなる」と分析した。
ネット上では過激派の活動が活発になっている。同報告書によると、9月にはネット掲示板で極右派のユーザーが不法移民に対する暴力行為を呼び掛け、民主党の勝利を「再び許すわけにはいかない」と投稿した。
同月、画像掲示板4chanで不法移民による「不正投票」を訴えるユーザーらが、不法移民を脅すため米移民当局の関係者になりすます計画を共有していた。米市民権を持たない人はそもそも米連邦選挙で投票できない。
8月には「20年の選挙不正」を理由に、選挙を左右する激戦州の一つである南部ジョージア州の選挙管理委員会を狙った暴力行為を呼び掛ける投稿が確認された。
DHSとFBIは政治的思想に基づいた放火事件や物的損害についても警告している。米報道によると、10月28日には西部ワシントン州とオレゴン州で郵便投票箱が放火の被害にあい、投票用紙が入ったままの封筒100封以上が焼失した。FBIが捜査に乗り出している。
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