トランプ氏 ハリス氏優勢のバージニア州で集会

トランプ前大統領は2日、南部バージニア州セーラムで集会を開きました。

7000人を収容できる会場は満員となり、トランプ氏は演説で「4年前と比べて皆さんの暮らしはよくなったか?」と支持者に語りかけました。

1980年の大統領選挙で共和党のレーガン元大統領が勝利を引き寄せたとされる選挙戦最終盤でのフレーズを意識しているとみられ、バイデン・ハリス政権の経済政策を批判しました。

そのうえで「わが国の歴史上、最も重要な選挙になるだろう」と述べ、自身への投票を呼びかけました。

バージニア州はいわゆる激戦州ではなく、2008年以降の大統領選挙では民主党の候補者が勝利していて、最新の世論調査の平均でもハリス氏が49.8%、トランプ氏が44%とハリス氏がリードしています。

トランプ氏はヒラリー・クリントン氏と争った8年前の2016年の大統領選挙で、クリントン氏の優勢が伝えられていたミシガン州などで選挙戦の終盤に集会を開くなどして支持を広げたことが勝利につながった要因の1つと指摘されています。

今回もハリス氏の優勢が伝えられる州で最終盤に攻勢をかけて8年前の再現をねらう思惑もあるとみられます。

ハリス氏「すべての国民のための大統領になる」

民主党のハリス副大統領は2日、激戦州の南部ジョージア州とノースカロライナ州を相次いで訪れ、有権者に支持を訴えました。

このうちノースカロライナ州では最大の都市・シャーロットで選挙集会を開き、陣営によりますと、1万人以上が集まったということです。

ハリス氏は演説で、自身とトランプ氏の違いだとして「私は専門家や意見が異なる人たちの声にも耳を傾けることを約束する。私はトランプ氏とは違って、意見が異なる人たちを敵だとは思っておらず、それが真のリーダーのあり方だ」と述べました。

そして「私は常に党や自分自身よりも国を優先し、すべての国民のための大統領になることを誓う」と強調しました。

ハリス氏は集まった支持者たちに期日前投票を行ったか問いかけるとともに、家族や友人にも投票を促してほしいと支援を求めました。

集会には、ハリス氏を支持するとして、アメリカを代表するロックバンドの「ボン・ジョヴィ」のボーカル、ジョン・ボン・ジョヴィさんも参加し、「私たちは今、互いの違いを受け入れながらともに前進できる」と述べて、投票に行くよう呼びかけました。

大統領選挙を脅かす「政治的暴力」50件越

激しい選挙戦のなかで深刻化しているのは、政治的に異なる考え方を許容しない人たちが暴力に訴える「政治的暴力」と呼ばれる事件です。ロイター通信のまとめによりますと、ことしに入ってこうした事件は50件を超えています。

このうちトランプ氏をめぐっては、7月に東部ペンシルベニア州バトラーで開いた選挙集会で演説中に銃撃を受けて右の耳にけがをしたほか、9月には南部フロリダ州のゴルフ場で男が銃で暗殺を企てていたとして拘束される事件が起きました。

ハリス氏をめぐっては、激戦州の1つ西部アリゾナ州テンピにある選挙事務所が9月と10月に合わせて3回、銃撃を受けました。

けが人はいませんでしたが、地元の検察によりますと逮捕された60歳の男は120丁以上の銃を所持し、大規模な殺害計画を企てていたということです。

またワシントン州などでは10月、郵便投票のために路上に設置された投票箱に火が付けられる事件も相次いでいます。

キニピアック大学が9月に発表した世論調査では、大統領選挙の結果に伴う政治的な動機による暴力について「とても心配している」と答えた人が39%「ある程度心配している」が34%と合わせて70%を超えています。

支持する政党別では、民主党支持者が90%、共和党支持者が59%、無党派層が69%で、民主党支持者のほうがより不安を抱いていることがうかがえます。

脅迫受けジョージア州では対策を

激戦州の1つ南部ジョージア州のポールディング郡は、人口がおよそ17万人で、前回2020年の大統領選挙ではトランプ氏が多く得票するなど伝統的に保守層が多い地盤です。

一方で、州の最大都市アトランタの都市圏に位置し、周辺の郡では民主党の影響力も強まっています。

前回の大統領選挙が行われたおよそ2か月後には議会上院の決選投票が行われましたが、この直前、ポールディング郡選挙管理委員会の責任者、ディードラ・ホールデンさんのもとには匿名の脅迫メールが届きました。

メールには「この郡の投票所でいとも簡単に爆弾テロを起こしてやる。待っていろ」などと書かれていて、ホールデンさんは「最初は何かの冗談かと思いましたが、州政府に連絡すると、他の人にも届いているので深刻に受け止めるべきだということになり、準備を始めました」と当時を振り返りました。

心配されていたような事態は起きませんでしたが、この脅迫をきっかけに、ホールデンさんたちは今回の大統領選挙に向けて対策をとってきました。

選挙管理委員会のオフィスと廊下に防犯カメラを設置し、出入り口のセキュリティを強化しました。

不審な人物が現れた際に、警察署や保安官事務所に知らせるための非常用のボタンを設置したほか、郵便物に有害物質が入っていた場合に備えて薬も用意しました。

さらに、重点を置いてきたのは、緊急時の対応です。

10月には、投票所での不測の事態にも対応するための研修を4回にわたって行いました。

投票日当日を想定したシミュレーションでは、投票所のスタッフが不審な動きや無理な要求があった場合に適切な行動をとれるか確認していました。

参加者は「一度経験して考えるようになると、どう反応すべきかわかるようになります」などと話していました。

選挙管理委員会の職員たちはこれまで銃の乱射事件が起きた際に有権者やスタッフを避難させるための訓練や不審物に対応するための訓練を警察などと合同で行っています。

またポールディング郡では21か所すべての投票所に保安官事務所から人員を派遣してもらい、不測の事態に備えるということです。

ホールデンさんは「私も職員も投票所のスタッフも、民主主義の番人なのだと自覚しています。能力を最大限引き出す訓練は重ねてきたと思います。私たちは非常に警戒して、まわりに細心の注意を払っていかなければなりません」と気を引き締めていました。

ニューヨーク大学ブレナン司法センターがことし5月に発表した、選挙の運営に携わる職員を対象にした調査では、16%が直接、もしくは電話やメールなどで脅迫を受けたことがあると回答しています。

また、90%余りが、2020年以降、投票所やオフィス、インターネットのセキュリティ強化や緊急対応の訓練の実施、マニュアルの更新など何らかの対策を講じたと回答しています。

専門家「許容されれば民主主義にとって非常に危険」

政治的暴力に詳しいアメリカ外交問題評議会のジェイコブ・ウェア氏は、「前回2020年の選挙以降、選挙の運営に携わる人たちは脅迫を受け、みずからの手で安全対策をとる必要に迫られてきた。今回も彼らは暴力的で過激な思想を持つ人たちの標的となる最前線に立つことになるだろう」と懸念を示しました。

そして激戦州の中でも双方が勝敗の鍵を握るとみている地域では政治的暴力のリスクが高まるとした上で、「もし多くの人たちが開票結果や民主主義の仕組みを受け入れなかった場合には、2つの現実と2つの情報が混在する状況に陥ってしまう」と述べ、開票作業が続く段階や勝敗が決した段階でもAIで生成した偽の情報が出回るなどしてリスクが続く可能性があると指摘しました。

ウェア氏は、選挙結果によって状況は異なるとし、「トランプ氏が勝利した場合は、何らかの反動はあるだろうが、小規模で散発的になるだろう」と述べました。

一方、ハリス氏が勝利した場合については「暴力に訴える可能性が高いのは反政府や白人至上主義の過激派に影響を受けた極右の個人だろう。この10年から15年の間、最も暴力的だった人たちで、トランプ氏のことばに少なからず突き動かされてきた。非常に危険で、火がつきやすいシナリオだ」と述べ、よりリスクが高まると指摘しました。

そして「アメリカで暴力や混乱が起き、選挙結果を否定するような行動が許容されれば、他の国も前例として実行しようとするだろう。アメリカにとって非常に危険で、世界の民主主義にとって非常に危険な状況に陥ってしまう」と警鐘を鳴らしました。

【解説】アメリカ総局 森記者

取材したアメリカ総局の森 健一記者に話を聞きました。

Q.民主主義を掲げるアメリカの大統領選挙が、暴力によって脅かされているという状況、取材をしていてどう感じる?

選挙の結果はもちろん、結果が出るまでのプロセスによっては、暴力を目の当たりにすることになるかもしれない、そうした不安がアメリカ社会に漂っていると感じる。実際に、政治的暴力についてアメリカの大学が行った調査では、「とても心配している」「ある程度心配している」と答えた人が合わせて70%を超えている。暴力への懸念が出ている現状は今や表現として定着すらしている「アメリカの分断」を象徴していると思う。

Q.そうした激しい対立が続く中での選挙ですが、激戦州ジョージア州を取材していて有権者の様子は?

双方の熱心な支持者たちを現場で取材してきたが、多くは自分たちの暮らしをよりよくしてくれることへの期待の声が聞かれた。暴力は、その対極にある。一方で、対立が激しくなる中で各地では、投票の手続きをめぐる訴訟も起きているほか、SNSでは、相手陣営をののしる投稿も散見される。接戦が伝えられる中、まずは5日の投票とその後の開票が滞りなく行われるか。そのためには暴力を許容しないという候補者自身のことば、各陣営のメッセージが重要で、アメリカの民主主義が問われていると言っても過言ではない。

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