大接戦が予想されたアメリカ大統領選は、共和党候補のトランプ前大統領(78)が、勝敗を分けるとみられていた東部ペンシルベニアをはじめ、南部ノースカロライナ、ジョージアなど激戦州を次々と制し、民主党候補のハリス副大統領(60)に勝利した。製造業が衰退した「ラストベルト」(さびた工業地帯)の白人労働者ら岩盤支持層に加え、ヒスパニック(中南米系)や黒人の男性の支持拡大戦略が功を奏した。(ワシントン・浅井俊典)

◆白人労働者、黒人や中南米系の男性票の取り込みを重視

 「私は激戦州が大好きだ。この真の戦いの場で、われわれは大勝している」  6日未明、南部フロリダ州で支持者を前に演説したトランプ氏は、激戦州での相次ぐ勝利を誇った。

トランプ氏が開いた集会の会場周辺に駆けつけた支持者=6日、米ウエストパームビーチで(鈴木龍司撮影)

 激戦州での戦いでトランプ陣営が重視したのは、もともと民主党を支持する傾向の強かった非大卒の白人労働者、黒人や中南米系の男性票の取り込みだ。特に中低所得層の男性は、自身の暮らしに直結する経済政策に敏感で、「米国第一」を掲げて国内産業の保護や減税を打ち出すトランプ氏への支持に転じる兆候が、世論調査で表れていた。

◆オバマ氏が懸念「女性大統領に乗り気じゃない?」

 トランプ氏は労働者の多いペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンのラストベルト3州で、米国の製造業復活を強調。黒人やヒスパニックが多い南部や西部の温暖な「サンベルト」の一角を占めるネバダとアリゾナ、ジョージア、ノースカロライナの4州では、経済成長や厳格な移民政策を約束した。さらに「男らしさ」を前面に出し、男性有権者らを引きつけた。

民主党大会で演説するオバマ元大統領=8月20日、米シカゴで

 実際、選挙戦終盤には、黒人初の大統領となったオバマ氏が激戦7州で選挙人が最も多いペンシルベニアで、黒人男性に向け「女性を大統領にするのに乗り気ではないのでは」と訴える一幕もあった。  AP通信が実施した出口調査によると、トランプ氏は勝利を確実にしたノースカロライナとジョージアの2州で、民主党を支持する傾向が強かった黒人男性の約20%の支持を獲得。前回よりも9~13ポイント伸ばした。中南米系の男性については全米で約54%の支持を集めた。

◆「青い壁」にハリス氏の経済政策届かず

 ハリス氏は、高齢不安で選挙戦撤退を余儀なくされたバイデン大統領に代わって7月に出馬を表明。出遅れ感は否めず、2020年大統領選のバイデン氏と同様、民主党が長年地盤としてきたラストベルトの3州を取って過半数を獲得するのが勝利に最も近い道とされていた。  党のシンボルカラーから「青い壁」と呼ばれた3州は、2016年大統領選でトランプ氏が勝利。2020年はバイデン氏が奪還に成功し、ハリス氏にとっては一つも落とせない重要州だった。

バイデン大統領とともに登壇するハリス副大統領(中央)=8月15日、米東部メリーランド州ラーゴで

 リベラルな西部カリフォルニア州出身で労働者層が嫌う「エリート臭がする」との批判も受けた自身の弱点を補完しようと、中西部ネブラスカ州出身で「庶民派」として知られるウォルズ・ミネソタ州知事を副大統領候補に据えた。  遊説では中間層の生活改善と労働者重視の政策を進めることを約束し、最終盤には、「青い壁」3州を繰り返し訪れた。  しかし、バイデン政権下で進んだ物価高や住宅費の高騰への労働者の不満がハリス氏への足かせとなった。ハリス氏の訴える経済政策は中間層への浸透を欠き、ワシントン・ポスト紙の出口調査で、「経済」を最も重視したと回答した人のうち79%がトランプ氏支持だった。 

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