【ニューヨーク=佐藤璃子、ロンドン=日高大】19日の欧米の金融市場では、ウクライナとロシアの戦闘激化を警戒する向きが強まり、国債が買われた(利回りは低下)ほか金も物色された。地政学リスクを嫌気して株式などリスク資産から安全資産へと資金を移す「質への逃避」の動きがみられた。
欧州国債市場では指標銘柄であるドイツ連邦債10年物が買われ、利回りは一時2.2%台後半まで低下(債券価格は上昇)し、10月末以来の水準をつけた。外国為替市場では、低リスク資産とされる円が対ドルや対ユーロで上昇した。対ドルで一時1ドル=153円台前半、対ユーロでは一時1ユーロ=161円台半ばまで買われた。
ウクライナ軍は19日、米国から供与された長距離地対地ミサイルでロシア西部の軍事施設を攻撃した。反発したロシアのプーチン大統領は19日、核兵器を使用するための条件を示した「核抑止力の国家政策指針」(核ドクトリン)を改定。核兵器による反撃の可能性を示唆した。地政学的な緊張が一段と高まっている。
日興アセットマネジメントヨーロッパのマネージングディレクター、マイケル・ラック氏は「ロシアの核ドクトリン改定を受け、市場は典型的なリスクオフトレードに動いている」と話す。投資家の運用リスクの回避姿勢は、ウクライナから地理的に近い欧州株式市場で鮮明に表れた。
欧州主要600社の株価指数であるストックス600は19日に一時、前日比1%ほど下げた。英FTSE100種総合株価指数は一時0.7%安、ドイツ株価指数(DAX)やフランスのCAC40は一時2%安の水準まで下がった。銀行や消費、機械関連などで売りが先行した。個別銘柄ではドイツ銀行が一時4%安、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンが一時3%安だった。
米国市場でも安全資産の米国債や金(ゴールド)に資金を退避させる動きがみられた。米長期金利の指標になる10年物国債利回りは一時4.33%台まで低下(価格は上昇)した。ニューヨーク金先物相場は続伸し、ニューヨーク商品取引所(COMEX)で取引の中心である12月物は一時前日比1%高の1トロイオンス2643ドルまで上昇した。
ダウ工業株30種平均は前日比120ドル(0.3%)安の4万3268ドルで引けた。取引開始直後に下げ幅が450ドルまで広がる場面もあったが徐々に下げ渋った。朝方はマイナス圏にあったS&P500種株価指数やナスダック総合株価指数は切り返し、それぞれ前日比0.4%高、1%高で終えた。
20日に決算発表を控える米半導体大手エヌビディアが一時前日比5%高になったのが相場全体を支えている。
ノムラ・セキュリティーズ・インターナショナルのチャーリー・マケリゴット氏は「年末までの米国株を左右しうる最大のイベントが20日のエヌビディア決算」と指摘し、地政学リスクよりも影響度は大きいとみていた。前日まで売りが優勢だった同銘柄を決算前に買い戻す動きもあったようだ。
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