ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まってから1000日が過ぎた。国連によるとウクライナの民間人の死者は少なくとも1万2164人。うち600人以上が子どもだ。筆者は2024年2月ポーランドで、ウクライナ人の避難家族を取材した。その家族が2024年8月に祖国に戻ったと聞き、いまの状況と心境を取材した。

(関連記事:「占領地域はロシアに渡して戦争を終えて…」ポーランドに避難するウクライナ人家族の祖国への思い 長引く戦闘で心境に変化もhttps://www.fnn.jp/articles/-/665527)

「早くこの呪われた戦争が終わってほしい」

「私はできるだけ早くこの呪われた戦争が終わってほしいと考えています。この戦争はウクライナに多くの苦しみをもたらしました。若者たちが亡くなっているのは本当に恐ろしいことです」

筆者がロシアの軍事侵攻から1000日が過ぎたことを聞くと、テチアナ・ビェリツァさんはこう答えた。テチアナさんはロシアの侵攻直後に4人の娘を連れて隣国ポーランドに避難した。ポーランドの生活は「異国の地で生活することは簡単ではありませんでしたが、私たちは前に進んですべての困難を乗り越えた」とテチアナさんはいう。

テチアナ・ビェリツァさん(2024年2月ポーランドにて撮影)
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「やっぱりここが故郷だからです」

4人の娘はポーランドの現地校に通いポーランド語を学んでいた。2月にインタビューした際は、「いま私の望みは娘たちが学校を卒業してこのままポーランドに残ること」だと語ったテチアナさんだが、いまだロシア軍の攻撃が続く中、なぜ危険なウクライナに戻ったのか。

4人の娘たち。右から四女のアンナさん、長女のアンゲリナさん、次女のアデリナさん、一人おいて三女のアリビナさん(2024年9月の新学期開始時に撮影)

テチアナさんは「やっぱりここが故郷だからです」と語り、こう続けた。

「どんなに辛くても、家に帰りたかったのです。病気の母が家に残っており、長男がいつ軍に徴兵されるかわからない状況でした。そしてポーランドでは一部の人々が私たちに対してひどい接し方をしていたため、娘たちがストレスを感じることがないように家に帰る決断をしました」

「上空をミサイルが飛んでいくのを見る」

テチアナさん一家が住むクレメネツは、ウクライナ西部にある小さな街だ。しかしいつロシアの攻撃の標的になるかわからない。また国内の電力供給が不安定で、一日数時間しか電気が使えないという。これから冬を迎える中、生活は一層厳しさを増す。

「ロシアのミサイル攻撃の警報が鳴ることがあります。上空をミサイルが飛んでいくのを見ることもありますし、それがウクライナ軍によって撃墜されたのも見たことがあります。しかしここでは誰からも『避難民だから出て行け』と言われることはありません。いま物価が高いことが一番つらく、すべてが混乱しています。しかし私たちはどんなに精神的、経済的な困難があっても強く生きなければなりません」

4人の娘たちはそれぞれ以前通った学校に戻ったが、多くのクラスメートが海外に避難したままだという。長男はいま建設現場で働き、家族の生活を支えている。テチアナさんの母親は病のため家で寝たきりで、テチアナさん自身も手術を受ける必要があるが経済的に難しい。

「以前はウクライナが勝つと思っていた」

ウクライナで実施された世論調査によると、ウクライナ国民の88%がロシアとの戦争にウクライナが勝利すると答えている。一方、そのうち「必ず勝利する」と答えた割合は2年前の81%から56%に減った。テチアナさんは2月に取材した際、「ロシアがこれ以上侵攻しないという確約があれば、いま占領している地域はロシアに渡して戦争を終えてもいいのではと最近思い始めている」と言っていた。いまも同じ考えなのか聞いてみた。

「いまは誰が勝つか断言することができません。以前はウクライナが勝つと思っていましたが、いまの状況を見ると分からなくなっています。人命をどう守るか考えていけば、答えは出てくると思います。もし私が権力者であれば、人が死なないこと、苦しまないことを第一に考えます」

「日本の人々に心から感謝しています」

最後に日本政府や国民に望むことを聞くと、テチアナさんは「私たちはいつも日本の人々に支えられてきました。心から感謝しています」と語った。

「私はすべての人々が平和と調和の中で暮らすことを望んでいます。戦争が早く終わり、ウクライナに平和が戻ることを願っています。インタビューをありがとうございました」

(この記事のインタビューは、ポーランドでウクライナ避難民の支援活動をする坂本龍太朗さんの通訳のもと書簡で行われた)

坂本さん(右端)とテチアナさんの一家(今年2月にポーランドにて撮影)

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