戦闘を続けているイスラエルとハマスは、エジプトなどの仲介で戦闘の休止や人質の解放に向けた交渉を行っていて、ハマス側が先月(4月)29日にエジプトで協議した内容を持ち帰り、対応を検討していると伝えられています。

この交渉についてイスラエルのネタニヤフ首相は30日、人質の家族などとの面会の場で「すべての目的を達成する前に戦争をやめるという考えは論外だ。合意の有無にかかわらず完全な勝利に向けガザ地区南部のラファへ部隊を進める」と述べ、あくまでハマスの壊滅を目指す姿勢を強調しました。イスラエル軍は、多くの住民が避難するラファへの地上作戦の準備を進めていますが、イスラエルのカッツ外相は、27日、交渉によって人質が解放されれば、ラファへの地上作戦を見合わせる考えを示していました。

これに対しては、政権内の極右勢力などから批判の声が上がっていて、ネタニヤフ首相の発言はこうした批判が背景にあるとみられます。一方、ハマスは、人質解放の条件として、あくまで完全な停戦の実現を求めています。

中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、「ネタニヤフ首相の発言は交渉全体を踏みにじるものだ」とのパレスチナ人の識者の見方を伝えていて、ハマス側が反発し、交渉に影響を与える可能性も出ています。

“病気や飢えで死の危険に直面”

イスラエル軍がガザ地区に激しい攻撃を続ける中現地で医療活動を続ける国際NGO「国境なき医師団」は29日、ガザ地区南部ラファの厳しい医療状況についての報告書を発表しました。

報告書は「ガザの静かなる殺害」とのタイトルがつけられており、医療システムが崩壊したガザ地区で人々は病気や飢えで死の危険に直面しているとしています。

具体的にはラファの2か所の診療所で週平均およそ5200件の外来診療を行っているとしていて、劣悪な衛生環境の影響とみられる下痢、気管支や皮膚の症状を訴える患者が多いとしています。

さらに、ことし1月中旬までは栄養失調の症例を確認できなかったものの、その後、急速に増加し、3月末までには5歳未満の子どもで中等度または重度の栄養失調となっている症例が216件確認されたとしています。

イスラエル軍による攻撃が続き、深刻な食料不足が住民の健康悪化につながっていることがうかがえます。

また報告書では、妊娠7か月になるまで検査や診察を受けられず、出産予定日すら知らなかった女性や、出産できる場所がなくトイレで出産したものの、赤ちゃんが亡くなっていた事例があったとしています。

国境なき医師団はこうした状況を改善するためにラファへの地上作戦の停止と一刻も早い停戦を訴えています。

“ICCがイスラエル政府高官に逮捕状の可能性”報道

イスラエル軍のガザ地区での軍事作戦をめぐって捜査を続けているICC=国際刑事裁判所がイスラエル政府の高官に逮捕状を出す可能性があるとする報道が、イスラエルやアメリカのメディアで相次いでいます。

これについてイスラエルのネタニヤフ首相は30日の声明で「ICCはイスラエルに対して何の権限も持っていない。戦争犯罪の疑いで軍の司令官や国の指導者に逮捕状を出すことは、歴史的に恥ずべきことだ。もし実際に逮捕状が出されれば人類にとって消えない汚点となる」と強く反発しました。

またヘルツォグ大統領も30日、「イスラエルの基本的権利を否定するためにICCなどの国際機関を悪用するいかなる試みにも反対する」とする声明を出しました。

アメリカのニュースサイト、アクシオスは、ネタニヤフ首相が28日に行ったアメリカのバイデン大統領との電話会談の中で、ICCが逮捕状を出すのを阻止するよう依頼したとも伝えていて、イスラエルがICCの動きに警戒を強めていることをうかがわせています。

米国務長官「あとはハマスに委ねられている」

アメリカのブリンケン国務長官は30日、訪問先のヨルダンで、記者団に対し、イスラエルとイスラム組織ハマスの間で行われている戦闘の休止と人質の解放に向けた交渉について「イスラエルは強力な提案を交渉のテーブルの上にのせ、譲歩する意思があることを示したため、合意に至ることが可能だと考えている」と述べました。

そして「あとはハマスに委ねられている。もう遅れや言い訳は許されない。行動する時は今だ」と述べ、ハマスに対し提案に応じるよう強く求めました。

一方、ガザ地区への人道支援について、ブリンケン長官は「重要な進展は見られるが、まだもっとやるべきことがある」とした上で、このあと、イスラエルでネタニヤフ首相などと会談すると明らかにしました。

国連事務総長「攻撃阻止へ全力を」

国連のグテーレス事務総長は30日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、イスラエル軍がガザ地区南部ラファへの地上作戦の準備を進めていることについて、「ラファへの軍事攻撃が行われれば、耐え難いエスカレーションとなり、さらに何千人もの民間人が殺害され、何十万人もが避難を余儀なくされるだろう。ガザ地区のパレスチナ人に壊滅的な影響を及ぼし、ヨルダン川西岸、そしてより広い地域に深刻な影響を及ぼすだろう」と強い危機感を示しました。

その上でグテーレス事務総長は「イスラエルに影響力を持つすべての関係者に対し、攻撃を阻止するために全力を尽くすよう求める」と訴えました。

そしてイスラエルとイスラム組織ハマスの間で戦闘の休止や人質の解放に向けた交渉が行われていることについて、「ガザの人々のため、人質にされている人々とイスラエルで待つその家族のため、そしてより広い世界のため、わたしはイスラエルとハマスが合意に達することを強く求める」と述べ、これ以上の事態の悪化を防ぐために交渉で合意に至るよう双方に呼びかけました。

米大統領補佐官「ラファでの大規模な地上作戦は望んでいない」

アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は30日、ガザ地区南部ラファへの地上作戦をめぐり、記者団からネタニヤフ首相の発言に対する見解を問われたのに対し「ネタニヤフ首相自身に語ってもらいたい」と述べるにとどめました。

一方で「われわれはラファでの大規模な地上作戦は望んでおらず、避難してきている人たちの安全を考慮しない作戦は見たくない。そのことはイスラエル側に伝えてある。彼らはわれわれの懸念を理解している」と述べ、ラファへの大規模な地上作戦を支持しない立場を改めて示しました。

また、カービー補佐官はイスラエルとイスラム組織ハマスの間で行われている戦闘の休止や人質の解放に向けた交渉について「テーブルの上には新しく、いい提案がある。ハマスがそれを受け入れることが本当に重要だ」と述べました。

そして「提案はイスラエルが誠意をもって交渉したもので、この取り引きを成立させようとするイスラエル側の真剣さに疑いの余地はない。この取り引きによって人質は解放され、6週間、どこにも戦闘がなくなることになる」と強調しました。

米国防長官「戦闘地域の住民保護に必要なことを」

ガザ地区南部のラファへの地上作戦をめぐって、アメリカのオースティン国防長官は30日、議会下院軍事委員会の公聴会で「彼らは、戦闘地域にいる住民を保護するために必要なことを行わなければならない。もし、作戦を行うのであれば、住民たちの安否を確認し、望むべくは、戦闘地域から移動させなければならない」と述べ、イスラエル軍が住民の保護を十分に考慮せず、無計画に突入することには反対だという考えを重ねて示しました。

その上で「彼らが言うところでは、作戦は順を追って行われ、住民たちを考慮し、危険な場所から避難させるとしている」と述べました。

一方、仮に、イスラエルが無計画に突入した場合、アメリカがイスラエルへの軍事支援を停止する可能性については「それは大統領が決めることだ」と述べるにとどめました。

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