イスラエルと隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの戦闘をめぐり、バイデン米大統領は26日、イスラエルとレバノンの両国政府が停戦に合意したと発表した。現地では27日午前4時(日本時間午前11時)から停戦が発効。パレスチナ自治区ガザでの戦闘を機に昨年10月から続いてきた両者の衝突に一定の区切りがついた形で、今後は合意が着実に履行されるかが焦点となる。
バイデン氏や米政権高官によると、両国政府が受け入れた米国の停戦案では、今後60日の間に、レバノン南部からイスラエル軍が段階的に撤退し、ヒズボラは国境から北に約30キロ離れたリタニ川以北に撤退する。これにより空白となる地域に、紛争に参加してこなかったレバノン国軍が展開し、米仏や国連レバノン暫定駐留軍(UNIFIL)などが違反の有無を監視する。
米国はレバノン軍の支援はするが、米軍部隊の展開はしないという。米仏両首脳は「取り決めが完全に実施されるように取り組み、新たな暴力の連鎖となることを防ぐ決意を崩さない」とする共同声明を出した。
レバノンのミカティ暫定首相は声明で、地域に安定を取り戻す「重要な一歩だ」と評価。イスラエル側も26日の閣議で停戦案を承認した。バイデン氏は演説で、今回の合意が「恒久的な停戦を目的としたものだ」と強調した。
現地時間27日昼時点で主立った戦闘は報告されていない。AP通信は同日、避難生活を余儀なくされていたレバノン南部の住民が帰還を始めたと伝えた。
ただ、停戦の実効性は予断を許さない。米国は「レバノン政府が交わした約束はヒズボラにも適用される。レバノン政府が国内の事象に責任を持つ」(政権高官)との立場だが、ヒズボラ側から公式には反応が出ていない。バイデン氏は、ヒズボラが合意を破った場合、「イスラエルは国際法にのっとった自衛の権利がある」と牽制(けんせい)。イスラエルのネタニヤフ首相も演説で、「停戦期間はレバノンでの展開次第だ」とし、ヒズボラが攻撃する構えをみせれば、すぐに攻撃をすると強調した。
両者の衝突は、ヒズボラが、昨年10月にイスラエルへの奇襲攻撃したパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスに呼応する形で始まった。イスラエルは今年9月下旬に空爆を強化し、10月にはレバノン南部に地上侵攻を開始。レバノン保健省によると、レバノン側では昨年10月以降、3800人以上が死亡した。
今回の停戦は、イランの支援を受ける勢力とイスラエルとの対立による中東の不安定化に一定の歯止めをかけるものだが、人道危機が深まるガザでの戦争は終わりが見えないままだ。ネタニヤフ氏は演説で、ヒズボラとの停戦を決断した背景に、ハマスを孤立させる狙いがあると説明。「人質全員を取り戻し、ハマスの壊滅を完遂する」と強硬姿勢を維持する構えを示した。(ワシントン=下司佳代子、イスタンブール=根本晃)
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