【ソウル=上野実輝彦】世界的K-POPアイドル「BTS」の所属事務所「HYBE(ハイブ)」で内紛が起きている。HYBEは独立を企てたとして、傘下レーベルの有名プロデューサーを業務上背任容疑で刑事告訴。プロデューサーは真っ向から否定し、対立が続いている。中小レーベルを吸収しながら内部競争を促し、急成長したHYBE。韓国メディアや評論家の間からは、構造的な課題を指摘する声も出ている。

◆事務所側は「クーデター」主張し告訴

ソウル市内にあるBTSが所属する事務所の社屋=2021年6月(相坂穣撮影)

 告訴されたのは、女性5人組の人気グループ「NewJeans(ニュージーンズ)」プロデューサーで、同グループが所属するレーベル「ADOR(アドア)」代表のミン・ヒジン氏。HYBEは4月25日に監査結果を発表し、ミン氏がレーベルの経営権を奪うため外部投資家と不正に接触したと主張。BTSメンバーが兵役で入隊する際に、シャーマン(呪術師)から助言を受けていたなどと説明した。  ミン氏は同日の記者会見で、経営権奪取を計画したことはないと反論。HYBEとの関係は「奴隷契約」で、今回の件は「HYBEが私を裏切った」などと訴えた。会見でミン氏が相手を口汚くののしる言葉を使ったり、NewJeansメンバーや家族から支持されていると正当性を主張したりしたため、ネット上ではミン氏への非難の声も上がった。  HYBEは会見翌日に詳細に反論。さらにADORに対して30日に理事会を開くよう求めたが、ミン氏はこれも拒否し、事態は混迷の度を増している。

◆事務所が抱える多数の「レーベル」

 HYBEはBTSの世界的ヒットを足掛かりに、2010年代末から中小レーベルの吸収や新規レーベル立ち上げを繰り返してきた。今では日米などの海外法人も含め、10以上の子会社を抱える企業に成長。ミン氏が代表を務めるADORも子会社の一つだ。  そうした既存の芸能事務所とは異なる体制は「マルチレーベル」と呼ばれる。所属アイドルらを内部で競わせ、高水準の娯楽を提供することや、多くの人気アイドルを生んで企業経営を安定させる狙いがあるとされる。

BTS=2022年5月31日、ホワイトハウスで(吉田通夫撮影)

 実際、HYBEには米ビルボードで1位となったBTSや、NHK紅白歌合戦にも出場したNewJeansなど有名アイドルが複数所属。BTSの入隊後も、他の所属アイドルが高い人気を保っている。

◆背景にレーベル同士の「共食い」?

 一方で、そうした体制下で十分な名声や報酬を得られていないと、ミン氏が不満を募らせた可能性がある。韓国紙・中央日報はHYBEの経営方式に関し「長所もあるがレーベル間の『共食い』が起きる恐れがある。今回の件はレーベル経営や管理に問題があると示唆している」と指摘する。  親会社とレーベルの板挟みになったアイドルの活動や人気への悪影響を懸念する声も多い。文化評論家のハ・ジェグン氏は「国際企業となったHYBEと傘下レーベルは、多様性を保ちながら結束していく方策を考える契機にする必要がある」と語った。 

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