主に男性が担っていた職業で労働力不足が深刻に

国連によりますと、ウクライナではおととし2月のロシアによる軍事侵攻の開始以降、国外に避難した人が11月18日の時点で侵攻開始前の人口のおよそ15%にあたる678万人にのぼっています。

さらに、侵攻の長期化によってこれまでにおよそ100万人の男性が軍に動員されたとみられ、特に運送業や建設業、農業など、これまで主に男性が担っていた職業で労働力不足が深刻化しています。

このうち運送業について、ロシアによる攻撃の影響で空輸ができず、生活物資や医薬品などを運ぶために陸上輸送の需要が高まる一方、ウクライナ政府によりますと必要な人員に対し担い手が25%ほど足りないということです。

ウクライナ最大の運送会社では、取り扱う荷物の量が侵攻前に比べておよそ30%増え、1日に150万件の荷物を国内外に運んでいて、運転手を中心に人手が不足しています。

運送会社のオリハ・ルキヤネンコ人事部長は「毎月1500人の人手が足りず、特に男性が担っていた仕事では深刻です。運転手だけでも毎月400人から500人が不足している状況です」と話していました。

女性たちがトラックの運転手を目指す動き広がる

労働力不足が深刻化する運送業では、政府などの支援を受けて女性たちが運転手を目指す動きが広がっています。

ウクライナの地方・国土・インフラ発展省によりますと、運送業では必要な人員に対して25%ほど人手が足りないため、ことし9月から女性のトラック運転手を育成するプログラムを始めました。

免許を取得するためのトレーニングや、企業への人材のあっせんなど、女性が運転手を目指すために、必要な費用はすべて国が負担しています。

また、ウクライナで陸上輸送の重要性が増す中、トラック運転手になって国に貢献したいと考える女性が増えているということで、120人の募集枠に対し1100人の応募があったということです。

11月に首都キーウで行われた講習には、育成プログラムに選ばれた10人余りが参加し、免許試験の対策などについて熱心に聞いていました。

参加した60代の女性は「私の息子は戦場で戦っています。トラック運転手は大変な仕事ですが、なんとかします」と話していました。

また、40代の女性は「私たち女性は強いです。男性の代わりに働きたいと思っています」と話していました。

ウクライナ地方・国土・インフラ発展省のデルカッチ次官は「ロシアによる侵攻前は、バスやトラックの女性運転手などはほとんどいなかった。経済を維持しながら、戦争に勝つには女性がこうした分野で主導的な役割を担うのが唯一の方法だ」と話しています。

また、企業やNGOも女性運転手の育成に取り組んでいて、キーウ市内に住むビクトリア・シニツカさん(39)はNGOなどの支援を受けながら、トラック運転手を目指しています。

シニツカさんの夫は、兵士としてロシアとの戦闘に参加しています。

シニツカさんは金融業界で働いていましたが、夫をはじめ身近な人が国のために戦う姿をみて、生活に欠かせない物資を運ぶトラック運転手を目指すことを決め、ことし9月に転職しました。

シニツカさんは「多くの支援物資や食料、燃料が海外から運ばれています。男性たちが私たちのために戦い、私たちは彼らのために働くのです」と話していました。

夫は戦闘で足にけがをして一時、自宅でリハビリを受けていましたが、12月に再び軍に戻ることになりました。

夫の身を案じながら新しい仕事を覚えることは負担も大きいですが、シニツカさんは国を支えるために自分ができることを行う以外に選択肢はないと感じています。

シニツカさんは「私は、戦争によって多くのものを失いました。友人や知り合いもそうです。誰もが国のために働くべきだと思います。もしも大きなトラックを運転し、物資を運搬することで国に貢献することができるなら全力で尽くします」と話していました。

国連人口基金 女性が働きやすい環境整備を

ウクライナで女性の職業訓練などを行うUNFPA=国連人口基金ウクライナ事務所のエルカンジ代表代理は「運送業、農業、建設業などで働くには、研修や訓練が必要だ」として、ウクライナ政府の対応を評価しながらも、女性の活用だけでは労働力不足をすぐに補えるものではなく、解消には時間がかかると指摘しています。

また男性が不在の中、家事を1人で負担している女性も増えているとしたうえで「女性たちは深刻な影響を受けている。家族の世話や親の介護などを担う人もいて、複雑な感情を抱えている」と述べ、こうした女性たちが新たな仕事に挑むのは負担が大きいとみています。

その一方で、ウクライナ経済を持続させるためには女性の存在が重要だとも指摘していて、女性が働きやすい環境を整備していくために、日本を含む国際社会のサポートが欠かせないという認識を示しました。

広場で女性の姿目立つ ”家族や友人の男性が軍に動員”

ウクライナの首都キーウの中心部にある聖ソフィア大聖堂の前の広場には、高さおよそ12メートルのクリスマスツリーが設置され、6日に点灯式が行われました。

雪が降り気温は氷点下となるなか、白いツリーがカウントダウンとともに青色にライトアップされると歓声が上がっていました。

集まった人たちの中には、家族や友人の男性が軍に動員されていると話す人も少なくなく、広場でも女性の姿が目立ちました。

50代の男性は「私の職場でも多くの若い男性が軍に参加しています。街なかでも女性の方が男性より多いと思います。彼らが無事に帰ってこれるか心配です」と話していました。

また、弟が動員されているという30代の女性は「弟は戦闘はつらく、疲れたと言っていますが、戦って必ず勝つと話していました。私たちが勝って戦争が終わり、兵士たちが全員、健康で無事に帰ってくることを願っています」と話していました。

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