シリアのアサド政権が8日、あっけなく崩壊した。最大の背景とみられるのは、ロシアのプーチン大統領がウクライナで続ける侵略戦争だ。プーチン政権はアサド政権の後ろ盾だったがウクライナ戦争の長期化でロシア軍は疲弊し、アサド政権を軍事的に支えきれくなった。中東地域でのロシアの影響力低下は必至の情勢。「ベルリンの壁」崩壊がトラウマ(心的外傷)となっているプーチン氏自身は体制転換を最も嫌悪し、国際的にも権威主義国家を支援する。シリアでの事態は、ソ連崩壊以来の地政学上の挫折であり、屈辱でもあると言える。(編集委員・常盤伸)

◆ロシアは中東での軍事戦略上の重要拠点を失う可能性

 アサド政権崩壊の衝撃の大きさを物語るかのように、プーチン氏はシリア情勢について、9日まで一切のコメントを出していない。ロシアで多数の読者を持つ軍事ブロガーは通信アプリ「テレグラム」のチャンネルに「10年間も(シリアに)駐留し、ロシア兵士が死んで、数十億ルーブルが費やされ、弾薬数千トンが浪費された。何らかの形で補償されなければいけない」と批判。ロシア内外でプーチン氏の威信は傷ついた。

2023年5月、サウジアラビア・ジッダで開かれたアラブ連盟首脳会議に出席したシリアのアサド大統領(AP=共同)

 アサド政権崩壊で、ロシアは中東での軍事戦略上の重要拠点を失う可能性が高まっている。ロシアはアサド政権から北西部の地中海沿いにあるフメイミムの空軍基地の使用権のほか、地中海で唯一の補給・修理拠点であるタルトゥースの海軍施設を49年間使用する権利を得ていた。  ウクライナ侵略を受け、トルコはロシア軍艦のボスポラス海峡封鎖を続けており、現在ロシア黒海艦隊は地中海に自由に展開できない。その点でも、シリアでの軍事基地の重要性は高まっていた。  しかし、ロシア軍はシリア内戦で反体制派や民間人への無差別空爆を行い、アサド政権の戦争犯罪に加担してきた。ロシアはその責任を今後厳しく問われるだろう。

◆ウクライナ侵略が長期化し、アサド政権支える余力を失う

 プーチン政権は2015年、反体制派の猛攻で敗色濃厚だったアサド政権の崩壊を防ぐため、大規模な軍事介入を行った。ソ連崩壊後、ロシアが旧ソ連域外で初めて行った軍事介入で戦況は一変。当時の米オバマ政権はシリアへの軍事的関与に消極的で、米国...

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