スイスに本部を置く非営利の研究開発機関「DNDi」は、WHO=世界保健機関が、NTDs=「顧みられない熱帯病」と定める病気について、世界各地の企業や大学などと連携しながら治療薬の開発を行っています。

この団体の創薬部門の責任者、チャールズ・モーブレイ氏が12月に来日し、NHKのインタビューに応じました。

この団体では、2年前からAIを使って創薬を行うイギリスの企業と連携し、南米や東南アジアで感染が拡大しているものの、特効薬が存在しない「デング熱」の治療薬の開発を進めています。

一般的に、創薬には10年から15年かかるとされますが、モーブレイ氏は「AIにより、開発全体のスケジュールが短縮されることで、開発コストも削減される」と述べ、期待を示しました。

そのうえで「私たちは幸運にも先進国に住んでいて、生命を脅かすような感染症の治療を受けることができる。しかし、途上国ではそうではない。私たちが本気で取り組み、世界が投資を行い、デング熱のような病気も無視せず、薬を開発すれば、対処することは絶対に可能だ」として、日本の製薬企業や大学などとも協力体制を構築しながら、今後も「顧みられない熱帯病」の治療薬の開発に取り組む姿勢を強調しました。

デング熱の感染者数は大幅増加 日本で発症も

デング熱は、蚊が媒介する感染症で、高熱や激しい頭痛、筋肉や関節の痛みなどを引き起こし、多くの場合は1週間程度で回復しますが、症状が重くなると死亡することもあります。

感染者数は、過去5年で大幅に増加していて、WHOによりますと、2023年は過去最高となる、およそ460万人が感染しました。

2024年は、感染者数がさらに急速に増加していて、10月末時点で1300万人を超え、死者は9600人にのぼっています。

特に感染者が多いのは、ブラジルやアルゼンチン、ペルー、メキシコを中心とした南米や北米ですが、インドネシアやベトナム、マレーシアなど、アジアでも増えています。

また、日本でも、海外で感染し国内で発症するケースが増えていて、国立感染症研究所によりますと、2024年は10月末の時点で200人が確認されています。

こうした中、9月下旬には、横浜や大阪を訪れた台湾からの観光客が、帰国後、デング熱を発症し、専門家と調査を行った厚生労働省は、日本国内で感染した可能性も十分に考えられるとして、全国の自治体に注意を呼びかけています。

厚生労働省は、海外でデング熱に感染した日本人や外国人観光客が、発症期に日本国内で蚊に刺され、さらに、その蚊がほかの人を刺すことで感染が広がる可能性もあるとしています。

感染経験のある 元サッカー日本代表 闘莉王さんは

世界的に感染が拡大しているデング熱について、2022年に感染した経験を持つ元サッカー日本代表の田中マルクス闘莉王さんがオンライン取材に応じました。

闘莉王さんは現役引退後、ブラジルのサンパウロ州に住んでいます。

感染した当時の症状について「最初は、ひどいかぜかと思ったが、40度を超えるような熱が出てきて、食事も口に入らず、寒気もとてつもなかった。血液検査をしてデング熱だと分かった。もともとスポーツをしていた人間としては、回復も早いと思ったが大間違いで、結局1週間ぐらい症状が続いた。あんなに小さな虫が、こんなにダメージを与えるとは想像もしなかった」と振り返っていました。

また、2024年10月末時点で990万件近い感染が報告され、5700人以上が死亡しているブラジルの状況については「正直なところ、何がいちばん難しいかというと、ちょっと虫に刺されたところで、デング熱を媒介するような蚊なのかどうか自分たちの知識が至っていない。ちょっと体調が悪くても、デング熱だと思わず血液検査をしないので、広がってしまうのではないか」と話していました。

そのうえで「車で何十キロも走って病院にたどりつくという地域もあるし、血液検査をするのにも、お金がかかる。そういうところが壁となって、状況を難しくしていると思う。遠くから病院に来なければならない人は、諦めて自分の中途半端な知識で治そうとする。そうすることで、死者が出るのだと思う。だからこそ、治療薬が出てくると間違いなく助かると思う」と話し、治療薬の開発の必要性を訴えていました。

薬の開発分野でAIの活用進む

2024年のノーベル化学賞を受賞した「DeepMind」社のデミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏が開発したAI=人工知能のモデル「アルファフォールド」は、これまで生物学の難問と言われ、多くの研究者が解明に時間を費やしてきた、たんぱく質の立体構造を高精度で予測できます。

このため、薬を作る際、目的となるたんぱく質の構造の解明についても、素早く研究が進むと期待され、薬の開発分野で活用が進んでいます。

新しい薬の開発には、通常、およそ10年、1000億円程度かかるとされていますが、AIの活用が進めば開発期間が短縮され、それによってコストの削減にもつながるとされています。

海外では、製薬会社がAI開発企業などと提携する動きが見られるほか、複数の製薬会社が共同でAIを開発するプロジェクトも立ち上がっています。

一方、日本国内でも、製薬会社でAIを活用する動きが広がっているほか、大学などの研究機関と17社の製薬会社が連携して、高性能なAIを開発する「DAIIA」という産学連携のプロジェクトも進んでいます。

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