【ワシントン=浅井俊典】岸田文雄首相は11日、米ワシントンのホワイトハウスでバイデン米大統領、フィリピンのマルコス大統領と会談した。南シナ海で威圧的な行動を強める中国を名指しで批判し、自衛隊と米比両軍の海上共同訓練を実施するなど、海洋の安全保障協力を強化することで一致した。半導体や重要鉱物資源の供給網強化など経済安保分野の協力なども記した共同声明も発表した。

◆バイデン氏「相互防衛条約」言及

 日米比3カ国による首脳会談は初めて。領有権を巡り中国とフィリピンが対立する南シナ海では、中国船がフィリピン船に危険な行動を続けて緊張が高まっている。首相は会談の冒頭、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持、強化するには、同盟国、同志国との重層的な協力が重要だ」と強調した。  バイデン氏は「南シナ海でのフィリピンの航空機や船、軍に対するいかなる攻撃にも相互防衛条約が適用される」と中国をけん制した。マルコス氏は「(3カ国は)インド太平洋の平和と安定、繁栄という共通のビジョンの追求によって結ばれた友人やパートナーだ」と述べた。  共同声明では、南シナ海での中国の「危険かつ攻撃的な行動」に深刻な懸念を表明。海上保安機関による合同訓練に加え、海洋協力を促進するための日米比海洋協議を発足させることを明記した。中国外務省は12日、外交ルートを通じて日本に抗議したと発表した。  日米比は、電気自動車(EV)用電池などの材料となる重要鉱物資源や半導体の供給網の構築などで連携を強化することも確認。  首都マニラがあるルソン島周辺でインフラ投資を促進させる「ルソン経済回廊」の計画を立ち上げ、鉄道や港湾の近代化などを進めることでも合意した。     ◇  日米比3カ国の首脳は11日の会談で、インド太平洋地域で存在感を増す中国をにらみ、抑止力を強化する姿勢を強く打ち出した。南シナ海の軍事拠点化を進める中国への危機感を強めるフィリピンのマルコス政権は、日米両国との関係を重視して軍事的な後ろ盾を得たい考え。バイデン米政権もインド太平洋の同盟・友好国と多層的に連携することで、中国に対する優位性を確保する狙いがある。(ワシントン・浅井俊典、バンコク・藤川大樹)

◆南シナ海で米中の覇権争いがエスカレート

 「日本とフィリピンに対する米国の防衛コミットメント(責務)は強固だ」。バイデン大統領は会談の冒頭、岸田文雄首相とマルコス大統領に強調した。  東・南シナ海で「力による一方的な現状変更」の試みを続ける中国は、台湾周辺での軍事圧力強化に加え、南シナ海で中国船によるフィリピン船の妨害を繰り返している。南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンド・トーマス礁)では3月下旬、軍拠点に向かっていた補給船が中国海警局の船から放水銃で妨害される事案が発生。複数の軍人が負傷する事態となり、中国との武力衝突に発展しかねないとの懸念が広がる。  米シンクタンク、ハドソン研究所のパトリック・クローニンアジア太平洋安全保障部長は、南シナ海で米中の覇権争いがエスカレートする中、「フィリピンがその最前線にいる」と米メディアで指摘した。

◆マルコス政権に対する中国の「圧力」

 フィリピンのマルコス大統領は2022年6月の就任以来、「親中派」とされるドゥテルテ前政権下で冷え込んだ米国との関係修復に努めてきた。さらに日本やオーストラリアなど「同志国」との連携強化も進める。  これに対し中国は、米国などとの防衛協力関係を深化させるフィリピンを強く警戒。マルコス政権に揺さぶりをかけている。  フィリピン軍は1999年5月、アユンギン礁近くで意図的に座礁させた揚陸艦に軍部隊を駐留させ、実効支配を続けるが、揚陸艦は座礁から25年がたち、老朽化が目立つように。実効支配を継続するためには「補強」が不可欠だが、中国はこれを阻もうと妨害を激化。妨害行為を「必要な法的措置」と正当化する中国との対立を深めたマルコス政権が、日米両国との連携強化にかじを切った形だ。

◆「日米同盟は米国のアジアでの戦略の中核」

 米国は対中包囲網を広げるため、インド太平洋の複数国が参加する枠組みの構築で同盟のネットワーク化を進める。今月7日には、日米豪比の4カ国による海上演習を実施し、中国の海洋進出をけん制した。  米シンクタンク戦略国際問題研究所のビクター・チャ上級副所長は、アジアにおける米国の同盟のネットワーク化は、日米同盟が軸だと指摘。「東南アジアではフィリピン、北東アジアでは韓国、南太平洋ではオーストラリアをそれぞれ引き込んで、さまざまな形の3国同盟を構築している。日米同盟は米国のアジアでの戦略の中核となっている」と解説する。 

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