機能検査で合格した製品は包装し、滅菌する=ホギメディカル公式ユーチューブのスクリーンショットより

 一度使ったら捨てられてきた医療機器をリサイクル(再資源化)でもリユース(再使用)でもない、「再製造」という手法で使い捨てにしない取り組みがじわり広がっている。背景には、医療現場でも環境問題を無視できない時代になってきたことがあるようだ。

 「一度使っただけで、多くの資源を廃棄するのはもったいない。廃棄すると感染ルートの遮断にはなるが、『感染対策だから仕方がない』と甘えているわけにはいかないと思った」

医療機器の再製造の可能性について語るホギメディカルの佐々木勝雄副社長=東京都港区で2024年4月12日午前11時半、金秀蓮撮影

 医療用品メーカー「ホギメディカル」(東京都港区)の佐々木勝雄副社長は医療機器の「再製造」事業への参入を決めた思いをそう振り返る。

 医療現場では感染対策など安全性を最優先するため、使い捨ての医療機器は多い。診断用のカテーテルや手術用ののこぎりなど、価格が数十万円する高価なものもある。使用時間がたった数分でも、使った後は感染リスクを広げないために廃棄し、そのほとんどが焼却されている。

医療機器「再製造」の流れ

 この使い捨ての医療機器を「原材料」にして作られる製品が「再製造単回使用医療機器」で、R―SUD(Remanufactured-Single Use Device)と呼ばれる。再製造とは耳慣れない言葉だが、本来1回の使用で廃棄するカテーテルや血栓塞栓(そくせん)症予防のためのマッサージ器などを製造業者が収集し、分解、洗浄、滅菌、そして使用できる状態に組み立て直すことを指す。

 国内でのR-SUD導入のきっかけは10年前にさかのぼる。

 当時、使い捨て医療機器は病院が独自の判断で滅菌し、再使用することが問題となっていた。滅菌が不十分であれば感染症を広げるリスクが高まり、複数回の利用で性能が低下すれば医療事故にもつながりかねない。

 2014年、厚生労働省は安全確保のため、使い捨て医療機器の再使用禁止を徹底するよう通知。そのうえで、17年に医療機器の再製造に関する新たな制度が作られた。

 R-SUDには従来の医療機器よりも承認に厳しい条件がある。国内で再製造の「原材料」にできるのは国内で使用された製品に限られ、脳や脊髄(せきずい)に触れたもの、感染症の治療に使われたものは除外される。オリジナル製品と同等の品質、性能が求められ、品質機能検査はすべての製品で実施されている。

 再製造医療機器の制度開始後、19年に日本ストライカー(東京都文京区)の心臓用カテーテルが国内初のR-SUDとして厚労省に承認された。その後ホギメディカルが手術器具の承認を受け、販売をスタート。2社の参入によって、23年度までに10品目が承認されている。

 ただし国内ではまだ「中古品」とのイメージがつきまとい、安全性や品質に疑問を投げかける医療者は少なくないという。

日本ストライカーで単回使用医療機器の再製造事業の責任者を務める野中寿太郎さん=東京都文京区で2024年4月22日午後5時8分、金秀蓮撮影

 00年ごろから普及が始まった米国の報告(08年)によると、R-SUDに関連した有害事象はオリジナル製品と同質で、再製造が原因と考えられる死亡事例はないという。日本ストライカーの事業責任者、野中寿太郎さんは「米国の病院の倉庫には、再製造品とオリジナルの製品があって、ジェネリック医薬品のようにあたり前のように使われている」という。

 R-SUDは、安全確保や資源の有効活用、医療廃棄物の削減だけでなく、医療費低減という観点でも注目されている。

 米国ではR-SUDの使用によって、年間9000トンの医療廃棄物を削減していると推定されている。直接関連する医療資源のコストは17年時点で、年間3億6000万ドルの削減ができたという。

 国内の使い捨て医療機器の年間市場規模は1兆8000億円。再製造に向いている医療機器のうち半分がR-SUDになった場合、340億円の医療費が削減されるとの推計がある。

 医療現場でも既に効果を実感している。国内で最も早くR-SUDを使い始めた旭川医科大病院(北海道旭川市)では20年6月以降、心臓用カテーテルをオリジナル製品56%、R-SUD44%という割合で使用。オリジナル製品よりも価格が3割ほど安いため、総医療費の削減効果は約3年間で700万円に上った。R―SUDの原材料となるオリジナル品などは製造業者が買い取ることになっているため、3年間で約100万円の収入になり、約250キロ分のと廃棄物処理費用も節約できたという。

 同病院の担当者は「使用済み医療機器の回収には、現場のスタッフが『エコでいいね』と言いながら積極的に取り組んでくれている。環境にも配慮でき、費用の削減にもなるためメリットは大きい」と話した。

 日本ストライカーの野中さんは「患者を助けること、環境を守ること、その両方を考えないといけない時代がきている」と語る。

 ただし拡大の一途というわけではない。厚労省の資料によると、R-SUDの普及は2%足らずだ。

 高階雅紀・大阪大病院手術部長は「病院側にとっては回収や患者への説明など手間がかかる。それに見合った経営的なメリットが少なかったことが一つの要因ではないか」と指摘する。

 現状を打開する材料もある。厚労省はR-SUDの使用を推進するため、24年度の診療報酬改定(6月1日施行)で、製品価格の10分の1にあたる点数を加算することを決めた。ある病院関係者は「診療報酬の加算がつくということは、国がこの制度を進めていくというメッセージとして受け止めている」と歓迎する。

 高階さんは「診療報酬加算がつくことで病院としての経営的なメリットが作り出された。これが国内で普及するきっかけになればいい。そのためにも、医療従事者の不安が減り、患者さんも心配することなく再製造の医療機器を選択できるようになってほしい」と期待する。【金秀蓮】

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