汽笛の合図とともにトンネルを抜けると、一面氷で覆われた湖が広がった。鉄橋を渡る車窓から見える絶景のパノラマが今も目に浮かぶ。JR根室線の富良野―新得間が3月末、117年の歴史に幕を閉じた。大自然を疾走する列車の姿をありのまま残したい。そんな思いで、初めて動画にも取り組んだ。

 この区間は「赤線区」と呼ばれるJR北海道の赤字5線区のひとつ。これで残る赤線区は2年後に廃止される留萌線の深川―石狩沼田間のみとなった。1987年の国鉄民営化でJR北が発足した後、道内で廃線になったのは1千キロ超。東京と大阪を往復できる距離だ。

 道内では珍しくない廃線のニュースだが、ドラマ「北の国から」に出演した俳優の中嶋朋子さんはいまだに廃線と聞くとドキッとするという。「どんな場所でどんな人がどんな暮らしをしているんだろう」。沿線の人々に思いをはせる瞬間になると、根室線をめぐるインタビューで話してくれた。

 「駅がなくなると街が相当さびれてしまう」。沿線に住む男性の言葉が忘れられない。たしかに、何十年も暮らしやドラマを運んだ鉄路との決別は、身を切られる思いだっただろう。

 気になるのは「痛み」を伴う改革の終着点であるJR北再建の行方がはっきりしないことだ。地元負担を前提に存続をめざす「黄線区」8線区の改善策はコロナ禍の影響で3年後に先送りされた。

 再建の「切り札」とされる北海道新幹線の札幌延伸も、難工事続きで2030年度末の開業延期が公表されたが、いつ完成するのかは明らかではない。

 沿線の市町などは開業時期に気をもみつつ再開発計画を進める。きちんとゴールをはっきりさせるべきではないか。「痛み」を繰り返さないためにも。(堀篭俊材)

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