シカ肉ジャーキーのブランド「鹿鹿」を立ち上げた公庄美保子さん。ロゴには狩猟時のユニフォームカラーのオレンジを用いた=京都府福知山市で、綾井まどか撮影

 京都府内ではまだ珍しい女性ハンターの1人、福知山市筈巻(はずまき)の公庄(ぐじょう)美保子さん(42)が、駆除した野生のシカの肉を犬用ジャーキーに加工し、販売するブランドを立ち上げる。野生鳥獣の農作物被害に悩む地域で主婦が狩猟をし事業を営むことで猟師のハードルを下げたい、と意気込んでいる。【綾井まどか】

Uターンし転職

 過疎化が進む地域で生まれ育った公庄さんは福知山市内の高校を卒業後、渡英。帰国後、東京で基礎化粧品の開発や製造などに携わっていたが、2019年春に長女の小学校入学を機にUターン移住。現在は、森の京都文化観光サポーターも務める。地元の猟師から話を聞いて狩猟に興味を持ち、手伝うようになった。20年にわな猟免許、22年には第一種銃猟免許を取得。「丹波吹風山(ふくちやま)狩猟会」の会員として駆除隊員に登録し、有害鳥獣駆除の活動を始めた。通常、捕獲したシカは隊員らが食肉として利用する以外は専用焼却施設で処分するが、「命をただ捨ててしまうのはかわいそう」と活用法を探り、犬用ジャーキーへの加工を思いついた。

試作品は好評

仕掛けたわなの標識をつける公庄美保子さん=京都府福知山市内で2024年4月、公庄美保子さん提供

 おいしさを保つため、くくりわななどにかかったシカはすばやく解体処理し、12時間から2日間程度、乾燥させてジャーキーにする。商品化のため、24年2月から試作を始め、愛犬家の知人らに配りモニター調査を実施した。シカ肉は大型・中型犬用には厚め、小型犬やシニア犬用には薄めにスライス。カルシウムやミネラルを摂取できる骨ジャーキーも用意した。着色料や保存料は無添加。モニターからは「愛犬の食いつきがいい」などと好評を得たという。

 公庄さんは「シカ肉は高たんぱく、低脂質、低カロリーのスーパーフード。娘たちもローストしたシカ肉は好物で、私たちが食べている安心・安全な肉を愛犬たちにも届けたい。加工の手間はかかるが、みんなにとって良い仕組みになれば」と話している。

若手の刺激に

 福知山市農林業振興課の鳥獣対策員、望月優さん(32)によると、市内には狩猟団体が三つあり、計212人が有害鳥獣の駆除隊員として登録しているが、女性はわずか9人。23年度の駆除数はイノシシ448頭、ニホンジカ4547頭などとなっている。野生鳥獣による農作物の被害額は年間約1500万円で、シカに関しては水稲被害がほとんどだ。20年のニホンジカの推定生息数は、府内自治体の中で福知山市が最も多いというデータもある。

 望月さんは「駆除隊員の数は、今は潤沢だが60代以上が7割なので、今後、担い手の育成を考えていく必要がある。公庄さんのように働きながら育児をして、駆除活動にも取り組む若手ハンターの存在は、よい刺激。モデルケースにもなる」と話している。

 商品のブランディングは、広告関連の仕事をする夫、仁さん(43)が担当し「鹿鹿(ろくろく)」とネーミングした。仁さんは「『ろくろく』は凡庸や平凡という意味を持つ。『猟師になりたい』と妻から聞いた時には本当に驚いたが、当初はここまで本気だとは思わなかった。犬用のシカ肉ジャーキーは既に商品化されているが、平凡な女性が猟師になり、捕獲から加工まで1人で行うのは珍しいのでは」と妻の挑戦を応援している。「ろく」にちなみ、6月6日、クラウドファンディングの「マクアケ」を利用した発売を予定。夫婦のプロジェクトはまもなくスタートを切る。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。