今まで無駄にしていたカカオの果肉や殻も使用 WS STUDIO/ISTOCK
<果肉を加えたらチョコがもっとヘルシーに。血糖値の急上昇を防ぐ食物繊維をより多く含み、食べたときの幸福感は従来品と変わらない新レシピが誕生>
チョコを愛する世界中の人に朗報。本場ヨーロッパの科学者たちが、チョコレートを今よりちょこっとヘルシーにする方法を見つけた。
チョコレートの原料は熱帯産フルーツのカカオ。白っぽい果肉に包まれた豆(ビーンズ)を発酵させ、豆だけを取り出してローストし、加工して製品にする。つまり、果肉は捨てられている。
もったいない。果肉に含まれる豊富な栄養素をもっと有効に使えないか。そう考えたスイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究チームが、同国の老舗チョコレート会社「フェルクリン」と組んでフルーティーなチョコの製法を考案し、オンライン誌「ネイチャー・フード」に5月21日付で発表した。
市販のチョコレートは豆から抽出したカカオマスを主原料としているが、研究チームはカカオの果肉(パルプ)に注目した。果肉を加えたチョコレートは従来品よりも食物繊維を多く含む一方、飽和脂肪酸は少なくなるという。
論文の筆頭執筆者キム・ミシュラによれば、「食物繊維は生理学的に有益なもので、腸の活動を自然に整える役割を果たし、チョコレートを食べた後に血糖値が急上昇するのも防いでくれる。一方で飽和脂肪酸の取りすぎが体に悪く、心疾患のリスクを高めることは広く知られている」。
砂糖なしでも十分な甘さ
そこで研究チームは、カカオの外殻の内側にある柔らかい部分と果肉を混ぜて処理し、ゼリー状にしてみた。すると、これが大変に甘かった。そうであれば、通常のチョコレートに添加されている砂糖の代わりに使える可能性がある。
しかし問題があった。カカオマスに加える果肉ゼリーが多すぎると舌触りが悪く、少なすぎると甘さを感じられなかった。
試行錯誤の末に、研究チームはベルン応用科学大学の人たちの協力を得てテイスティング実験を行った。用意したのはカカオマスに混ぜる果肉ゼリーの量を調整した何種類かの製品と、砂糖を使った在来品それぞれ5グラムずつだ。
「この実験により、果肉ゼリーの配合をどのようにすれば砂糖を加えた製品と同じ甘さを感じてもらえるのかが、経験値として分かった」と、ミシュラは言う。また香りや口溶け感などについても、在来品のチョコレートに負けないという評価が得られたという。
つまり、品質面の課題はクリアできた。しかし砂糖を使った在来品を完全に代替できるかと問われれば、まだまだ課題は多いという。
商業生産に移行するには、カカオ農家からチョコレート会社に至るまでの全工程に修正を加えねばならない。
従来は捨てるか肥料にするしかなかった殻の部分を生かせるのはいいが、それを加工する新たな手間が発生するし、そこで生じる付加価値をどう分配するかの問題もある。甘さを究める道は甘くない。
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