東京大ゲートウェイキャンパスのラボエリアのイメージ図。ガラス越しに一般の人が眺めることもできる(JR東日本提供)

東京大は、来春に街開きを迎える高輪ゲートウェイシティ(東京都港区)に新キャンパスを開設する。今後100年の大学のあり方を見据え、「学部や学科を基本にした組織」「壁に囲まれた敷地内に教室や研究施設がある」といった従来の概念から脱却。同シティ全体を「実験場」と位置づけて開発を行うJR東日本と連携し、地球規模の課題解決への道筋を探る。(山本雅人)

産学のコラボエリア

キャンパスを置くのは、オフィスやホテル、商業施設、会議場が入る地上30階建ての超高層ビル「ザ・リンクピラー1 サウス」。約1000平方メートルの9階部分に、さまざまな研究者やスタートアップ企業などと交流できるコラボレーションエリアと実験などを行うラボエリアをつくる。

高輪ゲートウェイシティの200分の1の模型。東大キャンパスは左端のビルの9階に開設される。その右下が駅(JR東日本提供)

研究テーマは、人の健康と地球全体の健康とのバランスが取れた社会の実現を目指す「プラネタリーヘルス」。

キャンパスを担当する大学院農学生命科学研究科の五十嵐圭日子教授によると、具体的研究の一つは「人にも地球にもスマートな街」。人・モノ・情報の動きを全て「流れ」ととらえ、「渋滞学」の開拓者として知られる西成活裕教授らと協力しながら、人工知能(AI)を活用した効率的なコントロール方法などを研究する。

人の流れの効率化はもちろん、入手や調理、食事などの食材(モノ)の流れを効率化すれば、フードロスの減少にもつながる。昼間人口が10万人になると想定される同シティの空間やレストランなどを実験場にし、成果を社会に還元していく。

このほか、「人と地球にウェルビーイングな街」の研究では、840戸の賃貸住宅が入る「タカナワゲートウェイシティ レジデンス」の住民向けに、最先端の睡眠研究による快眠サービスを提供。フィットネスジムでは、非接触の動作解析システムを導入し、効率的なトレーニングメニューの開発につなげるという。

今後100年を考えて

五十嵐教授は、「旧来のキャンパスで、社会との接点を作っていけるのか」と疑問を呈した上で、キャンパスが街に溶け込んだ米・ボストンのハーバード大の例を挙げ「次代の東京大のキャンパスは街の中に置くのがふさわしいと考えた」と語る。

一方のJR東も先を見据えている。同社マーケティング本部まちづくり部門の松尾俊彦マネジャーは「企業として今後100年を考えた際、従来の〝運ぶ〟ことを主体としたビジネスを続けるだけでいいのか」とし、「1日に1500万人の利用者を誇る企業として、多くの利用者が集まる『場』を、東京大の研究の実験場として活用してもらい社会課題の解決に貢献できれば」と話す。

また、「150年前に豊かな国づくりのため、社会インフラとして明治政府が整備したのが(JR東の源流の)新橋-横浜間の鉄道で、研究・教育機関として設置されたのが東京大」と目指すものが同じであることを強調する。

高輪ゲートウェイシティは、同社の車両基地跡地という単独保有の利点を生かし、他の干渉をあまり受けず長期的な視点からのコンセプトづくりができたという。東京大を中心とした〝街ぐるみ〟での学術的な取り組みだけに各方面から注目を集めそうだ。

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